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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第1戦後から第2戦 までの日常及び経緯
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第43話 『 全ては魔導王朝の為に 』


大陸歴996年9月24日。

ガーベラは護衛の騎士25名と共にボーエン王国城塞都市を出立した。


魔導王朝の朝都インダラまでの日程は5日間。

何も事故等が起きなければ9月29日には到着する予定であった。


しかし9月28日、宿場町にて王朝騎士団の出迎えを受ける。


「ガーベラ様を護衛するよう、仰せつかって参りました」


護衛の為だけに3騎士団をも寄越したのは、ガーベラも違和感を持たざるを得なかった。

余りにも厳重な護衛だった。

ガーベラの回りは2重にも3重にも取り囲まれていた。


予定通り、9月29日に朝都インダラ到着。

早速王朝外務省へ出頭し、主であるラーキ大公へ到着の報告に向かおうとした。

だが、護衛の騎士達がガーベラの前に立ちはだかった。


「こちらへ案内するよう仰せつかっております」


「待て、何かは知らぬが先に大公殿下への報告を済ませたい」


「ご安心を、大公殿下もお待ちになっておりますので」


嫌な予感はしていた。

護衛に3騎士団の出迎えは余りにも大仰過ぎる。

だが、今のガーベラには従うより他に選択肢は無かった。


連れてこられたのは魔導王朝の中心というべき宮廷タンクーラ。

年賀の式典以外は殆ど利用されることが無い筈であった。

その大広間へと先導された時、ガーベラは自分の目を疑った。


「な…!?」


居並ぶのはイナト筆頭大公、ラーキ大公を含む6大公。

魔導王朝の中枢を構成する文武百官。

各省庁の高級官僚、騎士団長や将軍らまでが揃っていた。


そして中央…玉座には魔導王朝の頂点に立つ宗主ヴリタラの姿が有った。


戸惑うガーベラを余所にして、ラーキ大公が前に出た。


「よくぞ参ったな…」


「大公殿下、これは一体!?」


「お主の最近の行状には、少々不審な点が見受けられる。

 これはそれを詰問する為の場だ」


「私にですか…?」


「宗主様直々の御立合いである。虚偽の発言は許さん、良いな?」


「…ハッ」


ガーベラは片膝をついてラーキ大公の前に控えた。


「では聞こう…。

 以前から再三に渡って少年との会談を求めているが、なぜ実現せぬ?」


「それは今までご報告差し上げた通りです。

 現在、少年の周囲には様々な勢力の思惑が渦巻いており、行動には慎重を要します。

 今は他勢力への刺激となる動きは控えるべきかと。

 まずは少年の後見人であり、父代わりのレスリー・アグワイヤを懐柔すべきです。

 この人物は少年からの信頼も厚く、我等に付けば少年も追随しましょう。

 その為には長期的な展望が必要と推察致します」


「うむ…これまでの報告内容と寸分違わぬな」


「誠に失礼ながら私からも質問、宜しいでしょうか?」


「申してみよ」


「先程仰られましたが、私の何処に不審な点が?」


ラーキ大公を含む、大広間に集った全ての者達は深刻な面持ちであった。



「ガーベラ・イーバー。

 お主には神族と通じている疑いが掛けられている」



主の衝撃的な発言に、ガーベラは咄嗟に言葉が出せなかった。


「ば…馬鹿な!この私が神族と通じていると!?」


「その疑いが報告されているのだ」


「大公殿下!いくら何でもご冗談が過ぎます!

 この私が大恩ある魔導王朝に背くと!?

 はなはだ未熟では御座いますが、王朝に対する忠誠だけは誰にも負けぬつもりです!」


「そんなこと分かっておる。

 お主は忠臣中の忠臣、亡きヤールの娘だ。

 我等魔導王朝を裏切るなど、天地がひっくり返っても有り得ん」


「ならばなぜ…!?」


「私も裏切っているとは思えん。

 だが、お主の行状には首を傾げる点が多々見受けられる。


 例えば神族騎士との接触だ。

 同じ少年の担当で接点が有るならば、ある程度の情報交換も止むをえまい。

 だが、お主とはかなり親密だと報告が入っておる」


「そのことですか…。

 今も仰られた通り、同じ少年の指導担当で有ればの接触です。

 確かに会話も多くありますが、やましいことは何も」


「その神族騎士との件についてだ。

 少年側に1億2000万ソラを受渡し、王朝騎士からの遺恨を解消したな?」


「はい、報告差し上げた通りです」


「その程度しか金子を用意できなかった我等の落ち度でもあるが…。

 神族よりも僅かながらでも多く提示しながら、結局は五分の結果となってしまった。

 あの場は、神族達に大差をつける絶好の機会だったのでは無いか?

 我が王朝の遺恨だけ解消し、法国はソレを残す。

 少年の感情は我々に大きく傾いたと思うが?」


「その事に関しましては申し開きも有りません。

 我が力が及ばず、誠に…」


「…なのだが、この結果に関しては寧ろよくやったと私は思う。

 相手は神聖法国の秘していた才能、イスター・アンデルだ。

 お主だからこそ、あの神族騎士相手に五分の結果に持ち込めたとも言えよう」


「で…では、何が問題で?」


「その交渉の場で、お主が秘密裡に通じていたのが目撃されている」


「な、何のことで御座いましょう?」


「恍けているのか?

 護衛の騎士達に見えぬよう、手話を使っていたと報告されている…!」


そう、あの交渉の場でガーベラは手話でサインを送っていた。


「本来なら我々魔導王朝が少年を誘引する絶好の機会であった。

 だが、結果として我々と神族は五分の状況に落ち着いた。

 

 いや…お主が五分になるよう手加減した可能性も否定できない。

 そして、いずれは神族へ少年を明け渡す段取りだと…」


「馬鹿な!そんなこと決して有り得ません!」


「ならば申してみよ!

 あの時、お主は王朝騎士の目を盗んで何を伝えていたのだ!?」


高官達の非難に満ちた視線がガーベラへと向けられた。

主であるラーキ大公さえも表情は険しい。


「…申し上げます。

 あの時、少年は神族からも我々からも金子を受け取る意志は有りませんでした。

 ですから、少年の傍に居たレスリー卿に指示したのです。

 あの場では双方から受け取るように、と」


「つまり神族からも受け取れ、とな?」


「…仰る通りです」


「なぜだ…なぜそのような指示を出す必要が有ったのだ?」



「しょ…少年に危害が及ぶのを防ぐためです」



ガーベラは項垂れ、途切れ途切れに言葉を続けた。


「少年が神族と我々のどちらかへ傾いた場合、間違いなく生命の危険に晒されるでしょう。

 ならば最善の策は双方から受け取らせることだと…そう判断した為です」


「少年に情が湧いたと申すのか?」


「それは否定しません。

 あの少年には個人的に好意を持っております。

 ですが、同時に彼は…彼の兵団はこれからの世界に必要なのは事実です。

 予言が現実となり、"黒い月"の脅威は迫っております。

 なのに、この状況で少年を失って何になりましょう?

 

 今回の私の独断専行に関しましては、如何なる処分にも従うつもりです。

 ですが、少年への対応には御再考を…」


「その少年の為だけなのか?」


「いえ、今の大陸の情勢を考慮してもです。

 少年の力は強大であり、どの陣営に与するかで大きく世界は変わるでしょう。

 しかし現在の世界の均衡は安定しており、平穏な時代を迎えております。

 ここで強引に少年を誘引するは大陸に混乱を…」


「それはお主の関与する所では無い」


「いえ、大公殿下もご存じのはずです。

 ならばこそ、神族との停戦協定が結ばれる予定だったのでは?

 外交でも秘密裡に交渉が進んでいたはずです。

 ならば今、ここで争いの火種を産み出すのは得策では有りません。

 同様の想いの者は神族にも多数いるでしょう。

 今は過去の因縁を捨て、"黒い月"に足並みを揃えるべきでは無いでしょうか。

 それから神族と雌雄を決しても遅くは…」



「…ガーベラよ」



玉座より声がかかり、ガーベラは首を垂れて控えた。

更に大公を始めとする集まった全ての者達が宗主へ姿勢を正した。


「余からも命ずる。

 少年を我が魔導王朝へ迎え入れよ…」


「し、しかし!それでは神族と開戦の可能性が…!」


「無論、そのつもりだ…」


宗主ヴリタラの威圧に満ちた声が広間全てに響き渡る。


「少年の力を得、次こそアコンの要害を越えねばならん…」


「なぜですか!?

 "黒い月"が現れてまで、なぜ魔導王朝は戦いを…!」


「――控えよ!」


ヴリタラへ反論するガーベラに、ラーキ大公からの叱責が飛んだ。


「申し訳有りませぬ、宗主様…!

 配下の失態と無礼は主であるこの私の責任で御座います!

 後で厳しく言い聞かせますゆえ、今は…!」


「黙っておれ…」


「い、いえ、しかし…」


「黙っておれと申したのだ…」


視線と共に威圧され、ラーキ大公は口を閉ざす以外に無かった。


「ガーベラよ…発言を許す」


「発言の御許可、有難う御座います。

 …なぜ、そこまで神族と争わねばならぬのですか?

 "黒い月"の脅威が迫っているのに、なぜ神族を殲滅する必要が有るのです?」



「決まっておろう…魔導王朝の為だ」



宗主ヴリタラはガーベラのみならず、大公を始め全ての者達を見ていた。


「余の意思、余の行動、全てが魔導王朝の繁栄の礎に繋がる。

 この500年は機を伺っていたに過ぎん。

 今こそアコン山脈を越え、神族を根絶やしにするのだ。

 その時こそ、魔導王朝の輝ける未来が開かれるであろう…」



少年の兵団は魔導王朝に迎え入れられ次第、戦列に加えられる。

王朝は大軍を興し、中央平原を通過しアコン山脈の要塞へと進軍する。

兵団の力さえ有れば落とすのは容易かろう。

更に軍を進めてパラス神聖法国領内へと攻め入り、聖都パラパレスへ。


神族の全てを攻め滅ぼし魔導王朝は大陸に…いや、世界に覇を唱えるのである。



「しかし、ここで魔導王朝が軍を興せば周辺国家は全て敵対に…!

 少年の兵団を陣営に加えたとしても、王朝に与する勢力は有りません!


 その時、世界は大戦乱へと…!」


宗主はガーベラの諫言に眉一つ動かすことなく聞き入れていた。


「ガーベラよ…。

 御主の父は誠に功臣であった。

 魔導王朝建国以来、あの男と肩を並べられる者は数える程しか居らぬ」


「…ハッ」


「その父の多大なる功績に免じて今までの発言は全て忘れよう。

 よって、今一度命ずる。

 ガーベラよ…。

 少年を速やかに魔導王朝へ迎え入れるのだ…」



 "拝命するのだ!"


ラーキ大公のみならず、多くの者達が心の中で叫んでいた。


宗主に対するこれまでの発言だけで、本来なら死を免れない大罪。

しかし宗主ヴリタラはガーベラに最後の機会を与えた。

周辺国から非情の魔王として恐れられる人物だが、亡き功臣の一人娘には情けをかけていた。


その時、ガーベラは無言で必死の形相を浮かべるラーキ大公に一礼した。

笑みを讃えたまま、これまでの感謝を込めた一礼を。


そして向き直ると、宗主ヴリタラへ言葉を返した。



「――申し訳有りませぬ。

 その御命令だけは拝命致しかねます」



ヴリタラの表情に変化は無い。

ただ、僅かに息を吐いてガーベラへと命じた。



「イーバー家当主、ガーベラよ…汝に極刑を言い渡す…」



ラーキ大公が歯を食いしばり、胸が締め付けられるような想いを必死に耐えていた

他の大公達も悲痛な面持ちで面を伏せていた。


多くの立ち会った文武百官も同じ想いである。


いずれは魔導王朝の中核になろうと誰もが噂していた。

亡き父、ヤールにさえも劣らぬ功臣になろうと。

8大公に次ぐ重臣になり、宗主からも信頼されるだろうと。

しかし将来を嘱望された人物の未来は、今この瞬間に絶たれた。


代々忠臣を輩出してきたイーバー家は終焉を迎えた。



両脇の騎士達にガーベラが連行されていく。


高官達の間を通って大扉の方へ。


最後に扉が閉じられるその瞬間…背後から宗主ヴリタラの声が届いた。



「ヤールの娘よ…これで良いのだな?」


「はい、これが魔導王朝の為ならば…」



次回 第44話 『 王朝混迷 』

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