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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第1戦後から第2戦 までの日常及び経緯
43/134

第41話 『 人の皮を被った化物(1/4) 』


「う~ん…」


その日の晩、夕飯後のひとときにアキヒトは悩んでいた。

テーブルにはレスリー、ドナ、アヤ、そして台所ではティアが片付けをしている。


「レスリーさん、思ったんですけど…この前貰ったお金、使った方が良くないですか?」


「というと、なぜだい?」


「あの2億3000万ソラ、僕が貰って満足したという証明が必要な気がするんです。

 ただ持ってるだけじゃなく、使った方が神聖法国も魔導王朝も安心するような…。

 何時でも返せる状態だと警戒されそうな気がして…」


レスリー自身も腕を組んで考え込む。


「僕達が恐れて受け取ったと思わせないような…。

 それよりもお金を派手に使った方が警戒心が薄れないでしょうか?」


「そうかもしれないが、何か使い道でも?」


「レスリーさんのお屋敷を買い戻しては如何でしょう?」


「はは、ダメだよ。

 それはあくまでアキヒト君が貰ったのだからね。

 気を遣ってくれるのは嬉しいけど、それは受け取れないよ」


「いえ、僕が原因でお屋敷を手放されたのですから、償うのは当然です」


「いや、本当に良いんだ。

 むしろ今の方が家が小さくなった分、娘と近くなった気がするよ。

 特に贅沢をしたいわけじゃないし、今のままで十分だね。

 それに屋敷を買い戻したら女中も増やさないといけない。

 残念ながら今の私には大きな屋敷を維持する程の稼ぎが無くてね」


以前は銀鉱山の潤沢な収入が有り、だからこそ大きな屋敷を持つこともできた。

それを聞いていたドナ先生が紅茶のカップを置いた。


「そうね…もしアキヒトが屋敷を買い戻してくれるなら、真っ当なお金でお願いしたいわ」


「やっぱりあのお金は真っ当じゃ無いかな…」


「当たり前よ、下手したら神聖法国と魔導王朝から脅し取ったように見えるもの。

 もし使うべきだと言い張るなら、自分が使うべきね」


「けど、今の僕には何も使い道が……ケーダさんの2000万ソラ返金くらいしか…」


アヤも食後のコーヒーを口にしながら消極的な意見を出す。


「今は大人しく持っていた方が良いんじゃないの?

 下手に使い込んで、いつか返す必要が出てきたら大変よ」


しかしアキヒトの右肩のシロも続く。


「本当ならパーっと使いたいところだが、今は控えておくか。

 それよりも余計な騒動起こさないように気をつけようぜ。」


「騒動の原因はいつもシロの気が…」


「なんだ、そりゃ!」


結局、手にした大金に関しては使わず、そのまま保管することにした。

その時、アキヒトが疑問を口に出した。


「あれ…そういえば、お金はどこに?

 気付いたら一瞬で無くなってたような…」


「任せろ、誰にも分からない場所に隠してあるぜ!」


「う、うーん…じゃあ、しばらく保管お願いするね」


シロが自信満々なので、アキヒトもそれ以上言及しなかった。

そこへ紅茶のお代わりをティアが運んできた。


「そうだ、ティアさんはお母さんが入院してるんですよね?」


「はい、お陰様で順調に快復しています」


「こんな質問、失礼かもしれませんが…入院費用や治療費は大丈夫でした?」


「それなら問題有りません。

 前もお会いしたビエー子爵に全て負担して頂いてますから」


「そうですか…ですが、必要になったら直ぐに言ってください。

 事情は有りますがお金はお金です。

 きっとティアさんの役に立つと思いますから」


「ありがとうございます、アキヒトさん。お優しいんですね」


「いえ、ティアさんにはいつも御世話になってますから当然ですよ」


威勢よく答えていたアキヒトだが、ティアを見ていてその笑みが止まった。


「今度ですね、僕…働いてみようと思います。

 シロに頼らずに、僕だけの力でお金を稼ぐつもりです。

 それで給料が出たら、ティアさんには服をプレゼントしますよ」


「え…私にですか?」


「その…ティアさん、いつも同じ女中姿じゃないですか。

 やっぱり綺麗な服とか…たまには違うのを着ても良いんじゃないかなって…。

 え、えぇっと、すみません。

 普段の姿も似合ってますけど、いつもお世話になってるから何かお礼をしたいと思って…」


「それはとても嬉しいのですが…本当に良いのですか、アキヒトさん?

 私、期待してしまいますよ…?」


「はい、期待してください!」


「ですが、そちらのお二人にも何か差し上げるべきでは?」


振り向くと、アヤとドナが冷めた視線でアキヒトを見ていた。


「そう…私、頑張ってアキヒトの世話をしてきたつもりなのにね…」


「別に良いわよ、アキヒトに感謝されたかったわけでもないし」


「ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃ!」


3人を見て微笑みながら、ティアはトレイにカップを乗せて台所へ戻っていった。





ティア・フロール


18歳。

現在は元勇者候補アキヒト・シロハラの案内人を務める。

以前は母親の入院費用と引き換えに、ブーロイ家の家人として案内人の務めを果たしていた。

現在はレスリー・アグワイヤに養女として迎えられ、アキヒトの身の回りの世話をしている。



ティアの朝は早い。

アキヒトが起床する1時間前には台所に立ち、朝食の準備に取り掛かっている。

彼女は城塞都市内の市場を歩いて回り、新鮮な食材の買い物をするのが日課である。

ボーエン王国城塞都市は大陸の中心地でもあって、様々な物資が流通する。

食材に関しても種類は事欠かず、一般市民でさえ安価で多くを口にすることができる。

ティアはこうして季節の食材を仕入れ、派手さは無いものの家庭的な料理を作り続けてきた。



「なんでテメェがいるんだ!」


「それは私の台詞だ!」


最近は毎朝、イスターとガーベラも食事を摂りにアキヒトの自宅へと訪れていた。


「これは任務だ!アキヒトの様子を見に来てんだよ!」


「私とて同じこと!王朝騎士として今ここにいるのだ!」


「2人とも、食事中は静かにしてくださいよ…」


同じ食卓のアキヒトは2人を見て呆れていた。


「ティア、少し味付けが薄いぞ。次からは塩を多めに振ってくれ」


「馬鹿者!食材の良さを活かした絶妙な味付けが分からぬか!」


2人の喧騒を背後に、ティアは更に4人分の食事を用意していた。

食べやすい一口サイズのサンドに眠気覚ましのコーヒー。

それらをトレイに乗せると、ティアは家の外へ出た。


「おはようございます、お役目ご苦労さまです」


「あ…これはどうも…」


「お食事まだでしたら、こちらを召し上がってください」


「いや、我等は任務中でして…」


「ご安心ください、召し上がりやすいように作ってきましたから」


彼等4人は、イスターとガーベラの護衛を任された騎士達だった。

ティアの笑顔に断り切れず、トレイのサンドを摘み上げた。


「こちらもどうぞ、目が覚めますよ」


「ありがたい…朝は冷えるのでな」


淹れたての湯気立つコーヒーに、法国騎士も王朝騎士も表情が和らぐ。

少女の心優しい気遣いに、宿敵同士であるのも忘れられた。



アキヒトの日課は午前が勉学、午後からは剣の鍛錬と戦術訓練と決まっている。


「今日はドナ先生、ゼミがあるから大学なんだね。

 それから図書館に本だけ借りに行きたいと言ってたよ」


「俺も出かけたい所があるんだが、留守にして良いか?」


「シロが出かけるなんて珍しいね」


「ケートの兵団の様子を見に行きたいんだよ。

 俺が居ないと不便なこともあってな、昼までには帰ってくる」


「じゃあ、午前中は僕一人か…」


「良い機会だ、俺から課題を出してやるよ」


シロの近くの空間が割れて、中から大きな紙が現れた。


「それって、もしかして前に見せてくれた魔法の!?」


「そう、時空魔法って言うらしいな。

 色んな物を収納しておくのに便利だから使ってる」


「もしかして、あのお金もそこに?」


「そういうことだ」


テーブルの上に紙が広げられると、そこに描かれていたのは地図だった。

続いて空間の割れ目から木片の駒が数十個と現れた。


白い駒が12個、青い駒が20個の計32個。


「今日はこれを使って戦術の勉強をするぜ」


見えない力が働き、青い駒20個が地図の上に配置された。


「俺が帰ってくるまでに、自軍の布陣を考えてくれ。

 白い駒が味方、青い駒が敵だ」


青い駒が8個、12個、2個と大きく3つに分けて地図上に配置された。


「どこに白い駒を置くかだね」


「そうだが、よく考えろよ。

 味方と敵の戦力比は3:5、言うまでもなく不利だ。

 この地形条件、配置状況で不利を覆すような布陣と戦法を考えておいてくれ。

 制限時間は俺が帰ってくるまでな」


「うん、分かったよ」


「まぁ、間違いなく無理だろうけどな」


「はは…かなり難しそうだね」


「当たり前だ、簡単な問題じゃ勉強にならないだろ?

 それじゃ、行ってくるぜ!」



シロが出かけた後、アキヒトは一人で盤上の駒と向き合っていた。


これまでの戦術訓練から、敵の動きをある程度予測できるようにはなっていた。

盤上に敵は20個の青い駒。

時間と共にどのような経路で侵攻するのか。

対して味方は12個の白い駒。

最初にどこへ布陣し、どのように動かすか。


アキヒトの頭の中でもう一つの盤が出来上がっていた。

これまで何千回、何万回という訓練の中で培われた敵進路の予測能力。

最も高い可能性で選択されるであろう敵の侵攻経路。

そこで味方の布陣により無数に分かれていく展開。

更に味方の動き次第で敵の動きも千差万別の変化を遂げていく。


「うぅん……」


白い駒の配置を変えて再び敵進路の予測。

頭の中で味方と敵の布陣が時間と共に変化。

味方戦力が半減した時点で戦術的敗北が決定。

再び白い駒の配置を変えて予測の再開。


「こんなの分からないよ!」


2時間以上もアキヒトは盤面と格闘していたが、解答を出せないでいた。

戦況の予測回数は50回以上を越えていた。

3対5の劣勢を覆す布陣、味方の戦術がどうしても考え出せない。


「少し休憩されてはいかがです?」


気付くとティアがトレイを持って、アキヒトの様子を見に来ていた。

そのトレイには香り立つコーヒーが。


「あ…ありがとうございます!

 丁度今、一休みしようと思っていたので」


「はい、お菓子もあるので召し上がってください。

 甘い物は頭脳労働に最適らしいですから」


テーブルの余ったスペースに紅茶とお菓子の皿を置きながら、ティアは盤面を見ていた。


「…随分、変わった勉強をなさっているんですね」


「はは、シロからの課題です。

 戦術の…戦争のやり方の勉強ですね。

 青色が敵、白色が味方、どうやって白い駒を置けば勝てるのかという問題です。

 制限時間はシロが帰ってくるまでなので、あと30分も無いですね…」


「そうでしたか…ですが、最後まで頑張ってくださいね。

 それでは―――あっ…」


ティアが一礼して離れようとした時…身体をテーブルに軽くぶつけた。

その衝撃で盤上の駒が動き、配置から大きく崩れてしまった。


「ぁ…す、すいません!ご迷惑を…!」


「いえ、全然構いませんよ。また並べ直せば良いだけですから」


申し訳無く何度も謝るティアに、アキヒトは笑いながら大したこと無いと慰めた。


「えぇっと、元の配置は…」


「アキヒトさん、私にさせて頂けないでしょうか?」


「え?」


「私、こう見えても記憶力は良いんですよ。

 その駒を、さっきと同じ並び方にすれば良いんですよね?」


「はい、そうですけど…」


「では失礼しますね」


ティアの白い指先が盤上の駒へと延びる。

合計32個の青と白の駒。

その一つの駒を取ると位置を変え、また一つの駒を取って別の位置へ。


「あの、僕が直しておきますから…」


「いえ、アキヒトさんのお手を煩わせるにはいけませんから」


既にティアの配置はアキヒトの頭の中にあった布陣と大きく異なり始めていた。

青い駒の配置は正しかったが、白い駒の配置が全く違う。


(まぁ、良いか…)


ティアのやりたいようにやらせた後、また自分が配置を直せば良い。

アキヒトはそう思いつつ、無理に手出しを止めさせようとはしなかった。


「えぇっと……こんな並び方だったと思います」


「は、はい…」


「では、失礼しますね」


ティアはお辞儀して台所の方へと歩いていった。


「さて、直そうかな…」


先程とは大きく変わってしまった盤上の駒の配置。

白い駒を動かそうと指を伸ばしたが…アキヒトの動きが止まった。




「帰ったぜ!」


「あら、お帰りなさい」


「おう」


シロが扉から帰って来て、ティアと挨拶を交わす。


「あぁ…シロ、お帰り…」


だが、アキヒトは生返事するのみでシロの方へ振り向こうとすらしなかった。


「お、熱心にやってんじゃねぇか。感心だな」


「…シロ、これどう思う?」


「何がだ」


アキヒトは盤上を指差し、シロに確認を促した。


「……驚いた、正解じゃねぇか。

 今のお前にはかなり難易度が高い問題だと思ったんだけどな」


白い駒は全て1ヶ所に集中されていた。


「一応聞くが、なぜ味方戦力を集中させたんだ?」


「3つに分かれた敵を一つ一つ撃破するため…。

 その代わり、かなり早く動き回って先手を取る必要が有るけど…」


「…その通りだ。お前、凄いじゃないか!

 それで、この戦術を考えるのにどれだけ時間が掛かった?

 理想はこれを一瞬で閃いて、時間と距離を計算して実行に移せれば良いんだが」


「いや…これは偶然なんだ」


「偶然?」


「さっき、ティアさんがお茶とお菓子を持ってきてくれたんだけどね。

 その時に身体がテーブルにぶつかって、駒の配置がずれちゃって…。

 適当に駒を並び直したらこうなったんだ」


「なんだよ!お前の実力じゃないのか!」


「は、ははは…ごめん」


「いや…まぁ、そうだろうよ。

 俺だって、今のお前には解けないと思って出した問題だからな。

 こんな課題、すんなり解けたら誰も苦労しねぇよ。

 だがな、アキヒト。

 兵団の力を十分に活かすなら、この程度の戦術確立は余裕を目標にしてくれよな」


「あぁ、うん、分かったよ」


台所でティアは昼食の用意をしていた。

2人のやり取りなど気にもせず、用意された食材から献立を考えていた。




「せいっ…!はぁっ…!」


昼食後の休憩を経て、アキヒトは一人、庭で木剣の素振りをおこなっていた。


本来ならイスターとガーベラに師事するのだが、2人とも多忙を極めていた。

両者ともに新しい役職に就き、アキヒトに割く時間も簡単に作れない。


「ふむ……うん……」


アキヒトが素振りをしている間、暇なシロは家の中に入っていた。

テーブルの上に再び地図を広げて駒を配置し直していた。

何度も並べ直し、次にアキヒトに出す課題を考えて試行錯誤を繰り返していた。


「シロさん、今から買い物に行ってきますのでお留守番お願いしますね」


「あぁ、気を付けてな」


ティアからの声も適当に返事して、シロは盤上の駒の配置に神経を注いでいた。


「では買い物に行ってきますね」


「はい!気を付けて!」


庭のアキヒトにも一声かけて、ティアは手提げ袋を持って家を出た。


晴れた日で頭上には青い空が広がる。

まだ日差しは強いが、真夏のピークは過ぎ去っていた。


道を行く人々の光景にもティアの姿が溶け込んでいた。


……が、ふと立ち止まった。


通りの真中で、ティアだけが動きを止めていた。


しかし数秒も経たないうちに翻り、アキヒトの自宅の方へと舞い戻っていた。


「…あれ、忘れ物ですか?」


「はい、少し用事を」


庭のアキヒトに声をかけられつつもティアは家の中へと戻っていった。


「どうした?早かったじゃねぇか」


中に入れば、先と同じくシロが盤面と向き合っていた。

そのシロに近づき、ティアが口を開いた。


「…シロさんですね?」


「ん…何がだ」


「私を追いかけている子です」


シロの注意が盤面からティアの方へと向けられる。


「な…何の話だよ」


「15分前からずっと私を追いかけている子です。

 シロさんが命令したんですよね?」


「ティア……おまえ…」


「私には必要無いですから外して頂けないでしょうか?

 お気持ちは嬉しいのですが…」


シロは驚きが大きいせいか、咄嗟に言葉が出ない。

そんなシロを、ティアは少し困った表情を浮かべながら見ていた。


「……わ、分かった」


「ふふ…有難うございます」


ティアは一礼すると、再び手提げカバンを持って外に出た。


「もう良いんですか?」


「はい、それでは行ってきますね」


アキヒトに再び告げて、買い物へと出掛けて行った。



「シロ、素振り終わったよ。少し休んでから戦術訓練始めようか」


「あ…あぁ…」


家の中に入ると、テーブルに向かってシロが何か考え込んでいた。


「なぁ、アキヒト。今、この家に何人いるか分かるか?」


「何人って…」


「答えてくれ、今、この家の敷地内には何人いる?

 お前には分かるか?」


シロに問い掛けられ、アキヒトは窓から外を見た。

庭にも敷地内にも誰の姿も気配も無い。

家の中を見回しても、自分とシロ以外には何の姿も見えない。

浴室、トイレ、2階の寝室も全て調べたけれど、当然だが誰も居ない。


「僕とシロだけだよ」


「他には?」


「誰も居ないよ」


「そう…だよな。普通は、そう思うよな…」


アキヒトにはシロの困惑と言葉の意味が分からなかった。




午後の戦術訓練を終えると、日が暮れかかっていた。

買い物から帰るとティアは洗濯物を畳み終え、今は夕飯の支度に取り掛かっていた。


「だからなんでテメェがいるんだよ!」


「貴様は遠慮の2文字を知らんのか!」


イスターとガーベラが夕飯目当てに来ていた。


「ティア、味付けは濃い目に頼むぜ!香辛料をたんまり使ってな!」


「コイツの言うことは無視して構わん!今まで通りで良い!」


居間の喧騒を背後にティアは料理を進めていた。

その時、テーブルに座って夕飯待ちの2人にシロが質問を始めた。


「イスター、ガーベラ、ちょっと聞いて良いか?」


「あ?」


「どうした?」


「お前達の国…神聖法国と魔導王朝で一番強いのは誰なんだ?」


何の前触れも無い問い掛けに、2人は意外な表情を見せた。


「なんだよ、突然」


「良いから答えてくれ。

 神聖法国と魔導王朝、それぞれ一番強いのはどんな奴なんだ?」


息をつき、最初に答えたのはイスターだった。


「まぁ、これは誰でも知ってることなんだが…。

 都のパラパレスにはサバラス神殿ってパラス教の総本山が有るんだ。

 そこを守護する8人の使徒が最強だろうな」


「見たことあるのか?」


「あぁ、式典で何度か会って話をしたこともある。

 パラスの神々の力を授かっているという話だが、まさにその通りだ。

 遠くから見ても、その強さは分かったさ。

 俺が聞いた話では、あの8人はサバラス神殿から一歩も離れられんらしい。

 だが、その代わりパラパレス周辺では無敵の強さを誇るな」


次に答えたのはガーベラだった。


「魔導王朝最強にして至高の存在は、紛れもなく宗主ヴリタラ陛下だ。

 500年前の大戦を一人で勝利したと伝えられておる。

 あの御方以上の存在は魔導王朝どころか大陸を見渡してもおるまい」


「見たことは?」


「年賀の式典で挨拶をなされるでな。

 また、私は父の縁で直々にお言葉を賜ったこともある。

 直に相対すれば分かるが…フフ、私など足元にも及ばぬよ。

 前に南方戦線で対峙した虎人族も噂に違わぬ勇猛果敢な戦士達であった。

 だが、あの御方の前では子猫にすら劣るな」


すると更にシロは質問を重ねた。



「なら聞くがよ…そいつらとティアはどっちが強い?」



彼女は今も台所で夕飯の支度をしていた。


「なぁ、教えてくれよ。

 お前らはそいつ等を直接見たことがあるんだろ?

 ティアよりも強かったのか?」


質問されたイスターとガーベラは暫く目を丸くしていたが…同時に大きく溜息を付いた。


「お前はたまに意味不明なことを喋るな」


「真面目に答えるまでも無かったな…」


呆れた顔の2人を余所に、シロは小声でアキヒトへ囁いた。


「アキヒト、よく聞いてくれ」


「なんだよ、今度は」


「ダチ公としてお前に忠告しておきたいんだよ。

 お前を危険な目に遭わせたくないからな」


「はは…なんだい、それ」


「今後、どんなことが有ってもティアを敵に回すな」


「…え?」



「これはダチ公としての忠告であり、ダチ公としての頼みだ。


 よく聞いてくれ…。


 ティアとの戦闘は絶対避けろ、分かったな?」



右肩のシロ、台所のティアを交互に見て…大きくを溜息をつくと椅子を立った。


「お、おい…!」


テーブルの上にシロを置くと、アキヒトは台所へと向かった。


「あの…ティアさん?」


「すみません、もう少しお待ち下さい。

 お食事でしたら、もう直ぐ出来上がりますので…」


「いえ、そうじゃないです。

 今日、シロが何か迷惑をかけたんじゃないですか?」


「あぁ…そんなに大したことでは有りませんから」


「すみません、いつもお世話になってるのに…。

 後でシロにしっかりと言い聞かせておきますので」


「良いんですよ、別に…」


「あ、僕もお手伝いしますね。お皿出した方が良いですか?」


「…ではお願いできますか?

 そろそろ盛り付けしますので」



ティアは機嫌を損ねる様子も無く、いつも通りの微笑みをアキヒトに見せた。













―――――――――――――――――――――――――――


敗残兵団戦力一覧


大陸歴996年9月時点


投入可能戦力

アパルト級大型機動兵器  1基

ガリー級中型機動兵器   2基

インガム級中型機動兵器  5基

各クダニ級小型機動兵器 39基


合計          47基










現戦力でティア・フロールとの交戦を想定した戦術的勝利の確率



             0.002%




次回 第42話 『 2人の違い 』

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