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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第1戦後から第2戦 までの日常及び経緯
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第35話 『 大陸平原同盟首脳陣 』


山賊討伐から開けて翌日。

午後からレスリーさんとボーエン王国王城へ同伴するように言われた。


「王が謁見をと仰っていてね…」


レスリーさんは余り気が乗らないようだが、王命には逆らえないらしい。


「それは…やっぱり、山賊討伐絡みの賠償でしょうか…?

 交易路も破壊しましたし、物流も止まってしまいましたし…」

「その程度なら良いんだけどね…」


察するに余り良い話では無いらしい。

本心では放り出したかったけど、後見人のレスリーさんに指示されては従うしかない。

僕達はお昼を済ませると、王城へと向かった。


城塞都市中央は高台となっており、貴族や富裕層の邸宅が密集している。

その更に中心には、城塞都市の中に更に堀で囲まれた城壁の王城。


「シロ…失礼な発言しちゃダメだよ?」

「…」

「シロ?」

「…分かってるよ」


シロの言葉が少ないのが気になった。

王城の中へ入ると、レスリーさんと別れて応接室へ執事さんに案内された。


「ここでお待ちになってください」


僕は言われたままに室内の椅子に腰掛けた。


「気が重いね…どうやってお金を稼いでいこうか…。

 何か良い方法考えないと…」

「気にするな、気楽に行こうぜ」

「金額が金額だけに気楽になれないよ…」


シロと一緒に話をしていると、扉が開いて誰かが入ってきた。


「あぁ、そのままで良いよ。気楽にしてくれたまえ…」


姿を見せたのは5人の男性だった。

その一人がボーエン王国の王様らしいのは分かるのだが…。


5人が腰を下ろすと僕は立ち上がって、一礼した。


「はじめまして、アキヒト・シロハラです!

 この度はお目にかかれて光栄です!」


「ふむ…礼儀作法は習っているらしいね、感心だ」


「恐れ入ります。

 ところで…皆様のお名前を伺って宜しいでしょうか?」


「よし、一人づつ自己紹介と行こうか。


 …未来の同胞にね」


僕の目の前に揃った5人の男性。

一人が王であり、他の4名も身なりが立派で只ならない人物なのが分かる。


中央の少し背が低めだが、最も堂々とした初老の人物。


「私はジーマ・ボーエン。

 このボーエン王国の第17代国王だ」


次に右の背の高い温和な表情の壮年期の男性。


「私はカターニ・カール。

 カール大公国の第22代元首を務めている」


中央の左、一際神経質な険しい表情の白髪の人物。


「私はザーマ・リトアだ。

 リトア王国の第12代国王である」


左端、身体の細い温厚な印象を受ける目の細い男性。


「私はカース・ゲーシ。

 トスカー共和国、第32期大統領です。」



そして最後に右端の人物。

入室以来、不敵な笑みを浮かべた最も若く見える人物が口を開いた。


「マーダー・ヨーサ。

 マーク同盟、第45代盟主だ」



「お…お名乗り頂き…光栄です」


正直、とても驚いていた。

国王と謁見するだけでも驚きだったのに、まさか平原同盟の首脳が勢揃いするなんて…。


「今日、この場に集うのに全員が予定を大幅に変更せざるを得なかった。

 他の案件を全て後回しにしてだ…。

 それは君と、最優先にこうして話し合う機会を設けるためだと理解して欲しい」


中央のジーマ国王を進行役として会議が始まろうとした時だった。



「――待ちな」


突然、右肩のシロが言葉を制した。


「お前らが話をする必要は無ぇよ、俺達が聞く必要も無ぇ…」

「ちょっと、シロ!」

「…悪いが、アキヒトは黙っていてくれ」


何かしらの冗談などでは無かった。


「…なぜだね?

 なぜ、私達と話し合う必要が無いと言い切れる?」



「お前らがこれから死ぬからさ」



シロが冷たく言い放った。


「今まで大人しくしていたのは、親玉に会うためだ。

 まさか5人全員来てくれるとはな…これは予想外の幸運だったぜ。

 後で一人づつ探す手間が省けたな」


「では、我等が殺される理由を聞いて良いかな?

 何か報酬欲しさに依頼でも受けたのかね」



「良いだろう、お前らを殺す理由を教えてやる…。


 それはな…俺のダチ公を馬鹿にしたからだ!」



シロが強く光輝き、怒りを露わにしていた。


「俺の機動兵器を魔獣呼ばわりしやがったのは許してやるよ!

 こんな未開の原住民に、俺の兵種の凄さを理解できる知能なんて無いからな!


 だが、アキヒトを馬鹿にしたのは許さねえ!


 他の勇者連中には御大層な武具をくれてやったのに、アキヒトには無しか!

 それを見兼ねて自慢の小型機動兵器を専用改装してやったんだ!

 なのに迷惑だぁ!?

 この非常時に何を考えてるだと!?

 自分の弱さを棚に上げて俺のダチ公に八つ当たりしやがって!」


僕はシロの気迫に圧されて、何も言えなかった。


「あの時、お前らの部下の衛兵がダチ公を馬鹿にした時だ…。

 俺は大陸平原同盟全てを敵と認識し、宣言した。

 それは今も変わっちゃいねぇよ」


「…どうやら少し感情が昂ぶっているようだな。

 我々としては、冷静な話し合いを望んでいるのだが。


 そもそも、どうやって我々を殺すと言うのかね?

 ここは城塞都市内でも最も守りが固められた場所だ。

 それは難しいように思えるが…」


「お前、本当に頭が悪いな」


「何がだね?」


「周りを見ろよ」


突然、応接室全体が暗くなった。

窓からの日光が突然何かに遮られて、影が深くなった。


「なっ…!?」


首脳陣から驚きの声が上がった。


全ての窓の外から覗くのは、クダニ級小型機動兵器の巨大な機影。

応接室周辺は完全に兵団で取り囲まれていた。


「恵まれてるな、お前ら。

 道端を歩く蟻はな、何も知らされず踏み潰される。

 なのにお前らは踏み潰される前に、踏み潰される理由まで教えて貰えるんだ」


「ちょ、ちょっとシロ!」


「良かったな、蟻より幸せで」


窓の外のクダニ達が口元の触覚を動かし、嗤っているように見えた。


 キシキシキシ…!

 キシキシキシ…!


クダニ達の不気味な鳴き声が応接室全体に響き渡る。


――しかし、その鳴き声が突然止んだ。


「…この前、レスリーに質問したんだ」


シロの光が少しだけ収まっていた。


「そう、質問したんだよ…。

 ムカついたから大陸平原同盟を潰しても良いかってな。

 そうしたらな、レスリーの奴…それは止めてくれと頼んできたよ。

 愛着も有るし仲の良い友達もいるからだそうだ。

 アイツも他の人間達に馬鹿にされてたのによぉ…。

 だからといって滅ぼすのは間違っていると言ってたぜ?」


完全に怒りは収まってないが、さっきよりは光が弱まっていた。


「だから今回はお前ら全員――大陸平原同盟を潰すのは保留にしてやる。

 俺のダチ公をいつも助けてくれるレスリーの頼みだ…。

 ムカつくが見逃してやるよ。


 だがな、覚えておけ。

 今日もレスリーと夕食なんだがな…仮にその席で

 『やはり大陸平原同盟を潰して欲しい』

 なんて一言でも頼んできたら、宣戦布告無しで即刻無差別攻撃だ!

 お前ら如き焼き尽くすのに1日も要らねえ!

 次の日には大陸平原同盟なんて地図から消えてるだろうよ!


 だから助言してやるよ!

 精々、レスリーを丁重に扱うんだな!


 お前ら大陸平原同盟は、レスリーの慈悲で生かされている事を忘れるな!」


「シロ、落ち着きなよ!」


「俺は冷静だ!

 でなければ、とっくの昔にコイツ等は死体だ!」


「兵団長命令を忘れたの?

 無闇に人を傷つけない、そう命令したよね?」


「分かってるがな、ダチ公を馬鹿にされては黙ってられねぇ!

 ダチ公をいつも助けてくれる恩人を馬鹿にされても同じだ!

 こればかりは兵団長命令でも従えねぇよ!」


怒気に満ちたシロを見て、ジーマ国王が徐に口を開いた。


「…言いたいことは分かった。

 以後、大陸平原同盟はレスリー卿を厚く遇すると約束しよう」


「フン…!」


ようやく怒りが収まったか、シロの光は普段通りに戻っていた。

応接室周辺のクダニも姿を消し、再び陽の光が部屋の中へ差し込んできた。



「それで用件は何だ?手短にな!」


「シロ、もう少し口を慎みなよ。

 僕達の態度次第で、レスリーさんに余計な迷惑がかかるんだよ?」


「っ…そ、そうかもな」


「しばらく黙っていてよ。

 僕達は大切な話をするために来たんだから…」


「分かった、少し静かにしている」


僕はシロが大人しくなったのを見計らい、改めて首脳陣に一礼した。


「申し訳ありません、シロの…同行者の無礼な発言をお詫びします」


「いや、それは良いのだ。

 それでは改めて今回の主題について話を始めよう…。


 まずはケートの山賊討伐の礼を述べたい。

 君も知っての通り、アレには非常に手を焼いていた。

 トスカー共和国のみならず、平原同盟各国に悪影響を及ぼしていたのだ。

 しかしこれで交易路が正常化し、各方面も快方へと向かうだろう」


「いえ、それは此方の事情で討伐しただけでして…。

 それよりご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 他の交易路を幾つも破壊してしまい…本当にすみません…」


「良いのだ、長い目で見れば交易路正常化の方が遥かに有益だからな。

 それで本日は討伐の功績に対し、君に報奨を与えるべく此処へ呼んだのだ。」


「報奨?えぇっと…既に懸賞金は頂いておりますが?」


「違う、君の言う報奨金はおそらく商会が依頼した類であろう。

 今回授与するのは大陸平原同盟からの報奨だ」


「そうですか…」


「これはまだ内密なので心して聞いて欲しい。

 我々、大陸平原同盟は近々6番目の国を立ち上げる予定だ。

 更なる経済の発展、生活圏の拡大を目指し、今は関係部署がその進行に追われている。


 そこでだ…アキヒト・シロハラ。


 君には、その新たな国の王に就任して貰いたい」


「…え?」


「6人目の大陸平原同盟首脳として名を連ねて貰いたいのだ」


「…えぇ!?」


僕は何かの聞き間違いかと思ってしまった。


「ま、待って下さい!

 確かにケートの山賊に困っていたと話は聞いています!

 ですが、だからといってその報奨が王位なんて…!」


「そう、その通りだ。

 通常ならば山賊討伐で報奨が王位など絶対に有り得ない。

 本当の目的は…"黒い月"のためなのだ。

 近い将来の戦いを想定し、君の働きに対する期待の表れと思って貰いたい」


「"黒い月"のため…」


「残念ながら現在、我々は"黒い月"に関して何も知ることは無い。

 ただひたすら強大で、大陸全ての力を結集しても迎え撃つことができるか…甚だ疑問だ。

 その中で唯一希望が有るとすれば、君の兵団だろう。

 今回の山賊討伐の報告は受けている。

 どれだけ凄まじい力を持っているかも。


 だから我々は君に期待している…!


 そのために新たな王位を用意したのだ…!」


僕は現実味が湧かないでいた。

夢を見ているのかと。

つい数日前までは無力な子供でしか無かったのに、王位に手が届きそうになっている。


勇者にさえなれなかったこの僕が…。


「くくっ…」


呆然とする僕の横で、突然シロが笑い始めた。


「シロ?」

「くくく…あはははは!」


最初は控えめだった笑いが、無遠慮な大笑いへと変わった。


「なぁ、アキヒト。

 お前は黙ってろと言ったがな、必要だから言わせて貰うぜ?

 コイツ等は" 黒い月 "から世界を救って欲しいなんて本心から思っちゃいねぇよ!」


「ど、どういうこと?」


「いや、今のは少し言い過ぎだな。

 コイツ等だって世界を救って欲しい、なんて気持ちが全く無いことも無いと思うぜ。

 何せ、世界が終われば何もかも終わりだ、当然自分達もな。


 しかし本心は別にあるんだろ?

 ハッキリ言えば良いのによ…。


 コイツ等はな、神族と魔族への対抗戦力としてお前を欲しがってるんだよ!」


首脳陣の5人は肯定も否定もしない。


「人間ってのは本当に愚かだな…!

 世界の危機だと騒いでおきながら同胞を疑い、隙有らば出し抜こうとしていやがる!

 今回の報奨の王位だってそうだ!

 お前を早々と王位に就かせて、大陸平原同盟の一員という既成事実化を狙ってるんだよ!


 間違いなくコイツ等、世界が終わる直前まで権力争いしてるぜ?

 この世で自分一人になるまで疑うことを止められない…救えねぇ生き物だよ!」


5人の眼光が鋭くなる。

だが、全く気圧される様子無く、シロは言葉を続けた。


「まぁ、それでも初手で王位を持ち出した点に関してだけは褒めてやるよ。

 コイツ等にとって神族と魔族への対抗手段を手に入れる最初で最後の機会だからな。

 なりふり構ってられないのも当然だ。

 これから神聖法国や魔導王朝からもアキヒトに交渉が持ち掛けられると思うが、

 流石に奴等も、ここまでの好条件は提示できないだろうよ。

 アキヒトに一番の高値を付けた点だけは、それだけは評価してやる。


 だがな…肝心の本音を隠して交渉ってのはどうなんだ?

 俺達を欺こうって態度は気に入らねぇな…!」



応接室が沈黙で包まれた。

対峙する首脳5人は微動だにせず、僕は自分の唾を飲み込む音が大きく聞こえる。


ジーマ王がゆっくりと話を始めた。


「アキヒト…この大陸の歴史は学んだか?」

「はい、大まかにですが」

「では500年前の大戦は知っているな?」

「はい…書物を読んだり、多くの人から教えて貰いました」

「なんと書いてあったかね?」

「とても大勢の人々が生命を落としたと…悲惨な時代だったと聞かされています」


「そう、本当に悲惨な時代だったと記録されている。

 戦争が終わっても中央平原に残されたのは荒れ果てた焼け野原だ。

 神族と魔族から度重なる搾取で、多くの同胞が餓えと寒さで命を落としていった。

 それでも復興できたのは、偉大な先人達の弛まぬ努力に依るものだ…」


「しかし今は豊かになり、神聖法国や魔導王朝とも対等に見えますが…」


「君の言う通り豊かな時代を迎えている。

 我々人間は…大陸平原同盟は経済発展を武器にして両種族と外交をしてきた。

 その結果、我々の地位は大戦時に比べて大きく向上したと言えよう。

 だが、それでも足りんのだ…。


 どうしても最後は、全ての決め手になる" 武力 "が必要なのだ」


すると、トスカー共和国のカース大統領が続いた。


「アキヒト…今、君は我々人間が神族や魔族と対等に見えると発言しましたね?

 ですが、それは見せかけです。

 例えば君達を召喚した儀式、表向きは3種族合同です。

 ですが、儀式に必要な全ての諸費用は大陸平原同盟の負担です。

 それでいて権利は3種族全て同等。

 つまりそこまで譲歩しないと、我々人間には権利が認められないのですよ。

 これは召喚の儀式に限ったことでは有りません。

 神族と魔族との外交で我々が譲歩するのは日常茶飯事なのです…」


頷いてジーマ王が言葉を継ぐ。


「古来より、我々人間は神族と魔族に挟まれた形にある。

 今は外交手段で上手く立ち回り、両種族を牽制している状態なのだ。

 仮に一方しか存在せねば、我々は搾取されるだけの家畜に成り下がっていただろう…。

 " 黒い月 "が到来するまで、君には情勢が安定して見えたかもしれん。

 だが、実際は薄氷の上の平穏だったのだ…。


 だからこそ、アキヒト・シロハラ…。

 君の力が…敗残兵団の力が大陸平原同盟には必要なのだ」


「そ、それは…パラス神聖法国やヴリタラ魔導王朝と戦えと仰るのですか?」


「それは我々も極力避けたい、だから君には抑止力になって貰いたいのだよ。

 後は外交努力次第でどうにでもなる。

 君という存在が有れば、両種族共に下手に手出しはできないからな。


 だから言っておくが、我々は戦争など望んではいない。


 生命と財産と…平和を守りたいのだ」


発言から大陸平原同盟首脳陣の苦悩が伺えた。


「フ…」


だが…左の4名は確かに沈痛な面持ちだが、右端の人物は不敵な笑みを崩さなかった。


「なぁ、それもおかしな話じゃないか?」


シロが口を挟んで指摘を始めた。


「何がだね?」


「仮にだ、お前達の望み通りにアキヒトが王位に就いたとしよう。

 兵団の力が有れば、この大陸平原同盟は守られるかもしれない…いや、絶対に守られる。

 だが、その後はどうするんだ?

 アキヒトだって人間だ、寿命があるだろ。

 いくら長生きしたって100年も守ってやれないぜ」


「そう、だからこそアキヒトには王位に就いて世襲制を執ってもらいたい。

 そして子々孫々に同盟守護の役を担って欲しいのだ」


「へぇ…」


「一つ確認したいのだが、シロ殿

 君はアキヒト以外と契約する気は無いのだろう?」


「当たり前だろ、アキヒトはダチ公だから特別なだけだ」


「ではアキヒトが死の間際、子孫を君に託したらどうする?」


シロが言葉を詰まらせた。


「君にはアキヒトの子孫と代々契約し、守護の任に就いて欲しい。

 その代わり、この大陸平原同盟が存続する限り、彼の血統の繁栄は約束しよう…」


「待ってください!

 それじゃ、シロが可哀想じゃないですか!

 何時まで経っても自由になれなくて!」


「それをどうするか決めるのはシロ殿だ…」


僕の傍でシロが考えあぐねいているのが分かった。


「シロ、耳を貸す必要は無いよ!

 僕が年をとって死んだら、お前は自由なんだから!」


「ん…あぁ…」


だが、更にジーマ王が僕に問い掛けた。


「アキヒト…エルミート家の令嬢の件は聞いたよ。

 トリス公爵相手に大言を吐いたそうだな…」


実際に大言を吐いたのはシロなんだが。


「はい…それが何か?」


「あのエルミート家の令嬢…以前、私の甥との婚約話が出てたよ」


「え…」


「君は案内人存続のために尽力したようだが、それだけなのかね?

 令嬢を案内人としてでなく…。

 異性として好意を抱いていないのか?」


「だから…何だと言うのですか」


「簡単だ、王位に就いた後、彼女を妃として娶るが良かろう。

 それならば父のトリス公爵も認め、大いに喜ぶだろう。

 あの令嬢は美人だし、君も文句あるまい?

 しかし王位に就かず、彼女を娶らないとあれば仕方ない。

 自ずと私の甥との婚約話も再開するだろう…」


「脅迫する気ですか?」


「脅迫では無い、これも政治の一つだ。

 一人が不満なら、アグワイヤ家の令嬢も妃として迎えるが良い。

 あの令嬢は母親譲りの叡智と美貌の持ち主だ。

 案内人の中でもかなりの逸材だが…それでも不満かね?」


「僕は…まだそんなこと考えるような…」


「但し、もう一人の案内人を娶るのは許さん」


ジーマ王の…その言い方が引っ掛かった。


「もう一人の案内人とは…ティアさんのことですか?」


「名前を聞くのも汚らわしい、あのような厄介者…!

 出来得るなら平原同盟から即刻追い出してやりたいわ!」


「今、なんと仰られましたか…?」


「何がだ」


「ティアさんのことを…今、なんとお呼びになりましたか?」


「厄介者と申したのだ!あのような下賤な出の女…!

 関わる者、全てを不幸にしおって!」


僕の中に…黒い何かの感情が湧き出てきた。



「あんな女…!あんな女、産まれてこなければ良かったのだ!!」



カタッ…


僕は無言で立ち上がって国王に向かい合った。



「シロ…兵団長命令だよ。クダニ級とのリンクを…」



「お、おい…落ち着けよ」


「落ち着いてられるわけ無いだろ!?

 ティアさんを…!ティアさんを馬鹿にされて黙ってなんか…!」


「そうか、君は厄介者に誑かされておるのか…。

 あの毒婦め…どれだけ災いをばら撒けば…。」


「…取り消してください!」


僕はボーエン王国の王様を睨みつけていた。


「知っての通り、僕は勇者になれなかった落ちこぼれです!

 馬鹿にされても当然だと自覚しております!

 しかしティアさんは不甲斐ない僕をいつも助けてくれました!

 僕にとっては掛け替えの無い…大切な人です!


 僕は今も非力です!

 兵団だって、このシロからの借り物です!

 そんな力を使って何かをしたとしても僕は卑怯者呼ばわりでしょう!


 ですが大切な人を侮辱されて黙ってるくらいなら…!

 僕は卑怯者と呼ばれても構いません!」


右肩のシロへ静かに告げた。


「兵団長命令…!アパルト級大型機動兵器を粒子砲発射体勢に移行…!」


「…了解、粒子充填開始」


「全開照射後、全兵団に前進命令…!」


「了解だ…。

 レスリーには悪いが潰しておくか。

 コイツ等、やっぱり生かしておく価値が無ぇよ」



「双方、待ちたまえ!

 ここで我々が争って何になる!」


その時、カール大公国のカターニ元首が立ち上がり、間に割って入った。


「アキヒト君、これ以上は本当に引き返せなくなる!

 それは君の望むことなのか!?」


「ただ僕は、ティアさんを侮辱されるのが我慢できないだけです!」


「ジーマ王の事情も考慮してやってくれ。

 あの娘は……君がティアと呼ぶ娘は王族の血を引いているんだ。」


「…!?」


僕はカターニ元首の方を振り向いた。


「私も昔ね、あの子と一緒に遊んであげたことがあるんだ。

 だから小さい頃から知っている」


「じゃあ、なぜ…」


「王家には王家の複雑な事情が有るんだ。

 腹立たしいだろうが、ジーマ王の心情も酌んでやって欲しい…」


そしてカターニ元首は、隣へ向き直った。


「ジーマ王も少し言葉を謹んで頂きたい。

 今、ここで過去の因縁に囚われ、感情的になって何になります?

 もう彼女は王家とは無縁なのでしょう?

 ならば、アキヒト君が彼女を妃に娶ろうが関係無いはず。

 それより我々が優先すべきことは他にあるでしょう?」


「…すまぬ。口が過ぎた」


「いえ、僕こそ感情的になって申し訳有りません…」


ジーマ王が一言謝り、落ち着くと僕も一礼して謝った。

そして進行役はジーマ王に代わりカターニ元首が引き継いで続けた。


「では、話を再開しようか。

 アキヒト君…と呼んでいいかね?」

「…はい」

「率直に聞こう…あの3人では異性として不満かな?

 先程ジーマ王も質問されたけどね、重要なことなので教えて欲しい」

「…3人共素晴らしい女性だと思います」

「妃としてはどうだろう?」

「そんな…僕は3人の気持ちを無視して、お妃にしたいとか…」

「彼女達なら妃に応じると思うよ」


「あの…なぜ、そう言い切れるのですか?

 もしかして3人の意思を確認済みだとか…」


「今も君の案内人をしてるのが、まさしくその証拠だよ。」


「それは違いますよ、あの3人は他の案内人と全然事情が異なっていますから。」


「いいや、そんなことない。

 少なくとも、君の案内人としての役目を途中で投げ出したりしてないだろ?

 つまり、それは君に好意を持っている証拠だ。

 考えてもみたまえ。

 あの3人の少女…3人共、自分の意思で君の傍にいるだろう。

 それは誰かに指示されてかい?」


「それは…案内人の義務もありますから、無害な僕を選んで…」


「本当にそれだけだと思うかい?

 彼女達が君に何の好意も抱いてないと?」


「そ…そんな聞き方はズルいと思いますが」


「ははは…まぁ、聞いて欲しい。

 少なくとも私見では、君が申し込んだら彼女達は全員応じると思うよ。

 あの3人を妃にして王位に就くのは不満かい?

 彼女達は全員美人なのに…」


「…美人でも凶暴な人がいますが」


「エルミートのお転婆嬢ちゃんかい?」


なんで知って…いや、イスターさんも知ってたしアヤ姉は有名なのだろう。


「君に手を上げるとしたら、それも好意の表れだと思うけどね」


「手を上げられる方は溜まったものじゃないですが…」


「ははは、全くだね」


このカターニという人はジーマ王に比べて遥かに話しやすい人だった。


「では、もしもだ…どうしても君が王位に就きたくない場合、彼女達はどうなる?」


「それはさっきも質問されましたけど…」


「それが現実だ。

 私も公人で、政治に私情を挟むのは決して許されない立場にある。

 だが可能ならば彼女達には…自身の望む相手と結ばれて幸せになって欲しい。

 特にエルミート家の当主はうるさいお人だ。

 あの当主が認める男で、君以外にお嬢ちゃんが好意を持てる人はなかなか居ないと思うよ」


僕の話はともかく…確かにアヤ姉の目に叶う男性が想像できない。


「それにね、君が王位を拒否した場合、レスリー卿にはどうやって報いるんだい?

 銀鉱山も失って屋敷も失って…アグワイヤ家はそのままかね。

 しかし君が王位に就いてアグワイヤ家の令嬢を妃にすれば…どうだい?」


「レスリーさんには、いずれ何らかの形で恩を返すつもりです。

 まだ時間は有りますから…」


僕が王位に就くのをレスリーさんが望むとは思わなかった。

そんな人だったら銀鉱山を失ったり屋敷を手放したりするわけがないし。


今直ぐは無理だが、必ず恩返しはするつもりでいた。



次に険しい表情のリトア王国、ザーマ王が話を始めた。


「では、私からも一つ聞いておきたい。

 脅迫するつもりは無いが、君の神族と魔族の先生はどうする?」

「どうするとは…」

「少し考えてみて欲しい。

 例えば君が神族の先生に勧誘されて、神聖法国へ連れられていったとしよう。

 その場合、魔族の先生は魔導王朝から何も処断されないと思うか?

 今の君は非常に重要な存在だと分かっているはずだ…。

 むざむざ敵国へ奪われた責任を追求されない訳があるまい」


ザーマ王の指摘通り、もう片方の人は何らかの処罰を受けるかもしれない。


「我々は神族とも魔族とも上手く折り合いをつけることができる。

 しかし神族と魔族同士が折り合いを付けるのは非常に難しい。

 どちらかに君が加入すればバランスが崩れて…戦争が始まる可能性も否定できない。

 500年前の大戦の再現は何としても防ぎたいのだ。


 だから考えて欲しい。

 君が大陸平原同盟側で王位に就いてくれるのなら、2人とも容易に処断されない。

 なぜなら君の知己であり、以後の外交相手として重用されるからだ。

 我々も両者には最大限の便宜を図ると約束する


 これで君の周囲の人物は全て救われる。

 最もバランスが良い選択肢だと思うがね…?」


理屈は通っていると思う。

だが、だからと言って早急に返事を出せるような問題でも無かった。


「だが、まだ何か不測の点が有れば遠慮なく指摘して欲しい。

 それからジーマ王の失言は私からもお詫びしておこう。

 先程は口論となってしまったが、我々は君達と良好な関係を築きたいのだ。

 それだけは覚えておいて欲しい…」


「ご配慮、ありがとうございます…

 ですが一応、考えてみますけれど御期待には添えないかと。

 僕は王様なんて柄じゃありませんし、なりたいとも思えないんです。

 こちらの世界の大学に進学して残留するかもしれませんが、それ以外は…」



「――嘘だな」


それまで黙っていた右端の人物が初めて口を開いた。


「何が嘘なんですか?」

「全部だ」


マーク同盟第45代盟主マーダ。

僕達を口元で嘲笑っていた。


「お前は如何にも野心とは縁遠い無欲な人間に見える。

 いや、装っているな。

 我々を軽蔑しているかもしれんが、結局はお前も我々と同類だ。


 王になりたくないか…。

 よくも恥ずかしげなく言えたものだ」


「おい、お前…さっきから目障りなんだよ」


シロが盟主マーダに怒りを向けていた。


「この部屋に入った瞬間から俺達を見下した目しやがって…。

 しかもアキヒトを嘘つき呼ばわりだと?

 聞き流せねぇな…!」


「嘘つきを嘘つきと呼んだだけだ」


「アキヒトのどこが嘘つきなんだ!?

 適当な事を抜かしやがったら許さねぇぞ!」



「…では嘘つきかそうでないか確かめてやろう。


 アキヒトよ…貴様には野心が無いのか?」


「や、野心って…」


「誰よりも前に進み、上に昇りたいと思わないのか?」


「…向上心なら人並みに有ります」


「人並みだと…?」


「王位に就きたいとは思いませんが、

 普通に勉強して一人前になりたいとは思って…」



「クックク…アッハハハハハ!!!」



盟主マーダは高笑いした。


「てめぇ…ダチ公の何がおかしい!?」


シロの怒りと共に、窓の外に再びクダニ級が姿を現していた。


キシキシキシ…!!

キシキシキシ…!!


ガラス越しに全クダニが臨戦体制に入っていた。



「シロよ…聞いただろう?お前の主人は嘘つきだ!」


「今の話のどこが嘘なんだよ!?」


「まだ気付かないか!

 アキヒトは人並みに強くなろうと…向上心があると言ったのだぞ!?」


「だから、それが何なんだよ」



「ならば言ってやろう…!


 人並みの向上心しか持たない者が、なぜ神獣召喚の儀を望んだのだ!?」



盟主マーダは嘲笑混じりで僕に向かって問い掛けた。


「神獣召喚の儀の時、他の勇者達の神獣を見ていたのであろう?

 それを見て貴様も望んだのでは無いのか?

 自分も力が欲しいと…!

 私には貴様が何を望んだかまでは分からん。

 しかし普通の努力では手に入らない何かがお前にも有ったのであろう?


 強く欲する何かが…!

 でなければ神獣など求めはせん!」


僕を見下し…そして思い切り嘲笑った。



「人を超越した力を欲しておいて野心が無いだと?

 片腹痛いな…!」



「おい、アキヒト…」


何も言葉を出ない僕を、シロは心配そうに見ていた。


そう…あの時、僕は神獣召喚の儀で望んでいたことがある。

神獣の力さえ有れば…神獣の力さえ有れば、僕にもと…。



「アキヒトよ…。

 野心を恥でなく、堂々と自分の一部として受け入れるのだな。

 恥じるな…むしろ誇れ。

 いつか己の野心を己の物にした時、私の下へ来るが良い」



盟主マーダは最後にそう言い残した。



この後、まもなくして会談は終了した。

退室して直ぐ、待合室にいたレスリーさんと合流した。


「どうした、アキヒト君」

「いえ…ちょっと…少し考え事がありまして…」


レスリーさんが心配そうに話しかけてきたが、あまり返事できなかった。

帰り道、僕が喋ることも殆ど無かった。



果たして僕は何になりたいのか?


兵団の力を手にした今、多くのことが可能となった。

今まで諦めていた何かを…僕にも手にできるのでは無いだろうか?


例えば王位すら…



この日以降、僕の日常は大きく変わっていった。



次回 第36話 『 新騎士団長候補イスター 』

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