第112話 『 それぞれの馬車にて 』
大陸歴997年5月25日。
リンツ商会より5300以上の荷馬車が南方へ向けて出立した。
目的地の竜都ドラクータまでは片道12日の予定である。
大陸平原同盟の最南であるボーエン王国と南方諸国では北端となる竜都ドラクータ。
それでも道のりは4000キロにも及び、長い旅となる。
しかし近年は牽引馬の品種改良により、持久力も速度も大幅に進歩している。
そのため一日に300キロ以上の移動が可能となっていた。
「このまま…12日間もこの状態ですか…」
「俺達は乗客じゃない、この荷の護衛だから仕方ないさ」
「いえ、狭いのは全然構わないのですが…」
「言いたいことは分かっている。だが、男ならあきらめろ」
困り果てた顔のアキヒトと呆れ顔のジョン。
割り当てられた荷馬車内の座席に男2人と女2人。
アキヒトの隣にティアが、その向かいにジョンと隣にアヤが腰掛けていた。
「ティアさん、すみませんがもう少し離れて…」
「私と一緒じゃご迷惑でしたか?」
「いえ、全然迷惑じゃないです!迷惑じゃないですが…」
「では、問題ありませんね」
隣のアキヒトにティアがべったりと身体を寄りかからせていた。
満面の笑みで本心から嬉しそうな顔をされては、誰にも止められない。
「アキヒトさん、有難うございます。
本当に私まで旅に同行させて頂けるなんて…」
「だってティアさんにはいつもお世話になってばかりですから。
これくらいのお礼は当然ですよ」
「護衛の試験、大変だったとお聞きしました。
私なんてアヤさんのついでかと思いますが、それでも嬉しいですよ」
「ついでなんかじゃないですよ!
そんな風に思ってません、ティアさんも大切な人なんですから!」
「…ティアは幸せです」
その言葉が嬉しかったのか益々アキヒトに強く抱きつき、容易に離れる様子は無い。
「護衛志願者は大勢いるが、か弱い女の子を同伴させてるのはお前くらいだぞ…」
「そういえば、さっきも言ってましたよね。
今回の護衛で同伴枠を使っている人はあまり居ないような口調で…。
それだけ今回の旅が危険ということですか?」
「あぁ、その通りだ」
アヤの疑問にジョンが現在の状況を説明し始めた。
「南の方へ盗賊連中、かなりの数が集まっていると聞いた。
最近は交易路の警護が厳しくて、なかなか稼げないらしいからな。
だからこの交易隊、荷目当てで間違いなく襲われるだろう。
その証拠に護衛志願の連中を見ていたが、同伴させてる奴はそれほど多くなかった。
それも当然だな、こんな危険な旅に誰かを同行させるなんて普通はしない」
「はい、それなら私も見ました。
何人かは同伴者らしき人達を連れていましたよね」
「その同伴者をよく見てみたか?
全員、それなりに腕に覚えがありそうな奴等だったよ。
自分の身を自分で守れるくらいにはな…。
要するに、商会にとっては人件費の節約にもなるわけだ。
1人護衛を雇えば、同伴者という形で心強い味方が増えるからな」
「それくらいなら、同伴者達も最初から護衛試験を受ければ良いじゃないですか?
わざわざ同伴枠を使わなくたって…」
「連中の顔の大半は試験日に見たよ。
全員不合格になってたな」
ジョンは護衛試験日に集まった志願者の顔を全て覚えていた。
並外れた記憶力に、聞き入っていたアキヒトとアヤが驚かされる。
「じゃ…じゃあ、なぜそこまでして同伴枠に食い込むんです?
確かに旅費は商会負担ですけど、護衛としての報酬は貰えないのに…」
「そこまでは連中に聞いてみないと分からないな。
分からないが…」
「――現地採用目当てかもしれませんね」
答えかけていたジョンの言葉を遮り、言葉を紡ぎ始めたのはティアだった。
「護衛の相場…価値が最も高くなるのは、外敵に襲われた時です。
敵が強ければ強いほど、その価値はどれだけでも高く…。
同伴の方々は、最も高く自分を売り込める機会を狙っている…と考えることはできます」
護衛達は報酬を受け取る以上、交易隊を守る義務と責任がある。
しかし同伴者達にはソレが無い。
「一度はその方々も試験で不合格にされたかもしれません。
ですが、場合のよっては合格者よりも高い報酬が望める可能性もあります…」
「ほぉ、例えばどんな場合だ?」
「ふふ…そんなこと、私が説明申し上げなくてもジョンさんにはお分かりでしょうに…。
仮に護衛の数倍もの盗賊達が襲い掛かってきたら、如何でしょう?
相場の報酬より何倍でも支払うから、と…商会は金に糸目をつけないでしょうね」
ティアの視線と口調が普段より鋭くなっていた。
アキヒトやアヤは少し驚いていたが、ジョンだけは平然と受け応えていた。
「なんだ、ティアも自分を売り込むつもりなのか?」
「何をおっしゃるのですか…私みたいな、脆弱な女に何ができます?
だからアキヒトさん、ティアを怖い盗賊の手から御守りくださいね…」
「あ…はい、それは当然です……当然ですから…」
盗賊の話で怖がる素振りを見せ、ティアは更にアキヒトの身体にしがみついていた。
ますます密着され、アキヒトは赤面して困りつつも引き離せないでいた。
「…白々しい」
「シロさん、何かおっしゃいました?」
「何も」
敢えて虎の尾を踏む必要も無く、シロはそれ以上何も言わなかった。
「という訳で、今回の旅の状況説明はそれくらいにしてだ。
そろそろお前達のことを教えてくれないか?
アキヒトと美人2人の関係…是非聞かせて欲しいな」
「そ、そうですね…どこから説明して良いのか…」
「時間はあるんだ、最初から説明してくれれば良いさ」
「では…実は僕、この世界の人間では無いんです…」
それまでの経緯をジョンに話し始めた。
この世界に100人の勇者候補達と共に偶然召喚されたことを。
アヤ、ディオーナ、ティアの3人が案内人として傍にいてくれること。
シロと契約し、巨大な力を持つに至ったこと。
魔導王朝や神聖法国と戦い、次に"黒い月"との戦いが控えていること。
そして今回の南方行は、自分を鍛え直すためだということ。
「…待て。まだ他にも女の子がいるのか?」
「はい、今回は別行動ですが」
「あのな、アキヒト…俺はそういった件に関して寛容だから良いが…。
世の中全ての人間が、女性関係にだらしない男に理解があるわけでもないぞ」
「だ、だから案内人ですよ!案内人!」
「案内人というには距離が近すぎのように見えるが…」
アキヒトにべったり密着しているティアの姿に、ジョンもアヤも呆れた目をしていた。
「そ…そういうジョンさんは何をされているんです?
普段はどんなお仕事を?」
「俺か?見ての通り、護衛の仕事で食い繋いでるよ。
飯も寝る所も用意してくれるからな」
「しかし危険じゃないですか…?」
「危険は慣れてるさ、元軍人だからな」
その瞬間、ヴァルマー級に敬礼をしたジョンの姿をアキヒトは思い出した。
「だが、それ以上は答えられないぞ?
何処の国の何処の軍隊だったとかは、軍事機密ってことで遠慮してくれ」
「じゃあ…なぜ、軍隊を辞めたんですか?」
「軍の方針と俺の考えが合わなかったんだよ。
回りは気の良い奴等ばかりだったんだがな…」
「そうですか…しかし試験日の時、あまり剣は得意でもないように見えましたが?」
「当然だ、剣を握るなんて初めてだったからな」
「え…軍人なのにですか?」
「軍人全てが剣を握って戦うという訳でもないさ。
白状すると、俺は砲撃手だったんだ」
「砲撃手というと…大砲を撃ったりする…」
「そう、そう思ってくれれば良い。
こう見えても腕は悪くないんだぞ…?」
実際、アキヒトから見ても剣に関しては不慣れだった。
それ以降も馬車の中で話は続いたが、結局核心に触れるような話題にはならなかった。
一方、イスターとガーベラが乗り込んだのは富裕層向けの馬車だった。
荷台に一時的に作られたアキヒト達の臨時席とは異なり、立派な客室仕様である。
窓には革製のベルトに吊り下げられたカーテン、座面には心地良いクッション。
しかし向かい合っていたガーベラが、イスターから最も遠い場所に離れて座っていた。
「おい、なんだソレは?」
「何だとはなんだ」
「なんで腰の剣に手をかけてるんだよ。
賊連中が攻めてくるとしても王国領内を出てからだぞ。
今はまだ大丈夫だから安心しろよ…」
「安心できるか!
賊より危険な男が何を言っておるのだ!?」
「…はぁ?俺の何が危険なんだよ」
「こんな密室に貴様のような野獣と2人…!
女ならば警戒して当然であろう!」
「ふ、ふざけんな!
お前みたいな奴に、そんな気が起きてたまるか!」
「なんだと!?
私を女として侮辱する気か!」
剣の鞘に手をかけて警戒の目を向けるガーベラを見て、逆にイスターは力が抜けてしまった。
僅か20センチばかりだが腰の位置を変え、ガーベラから遠ざかってみせた。
「お前をこの馬車に誘ったのは襲うためじゃねぇよ。
かと言って、愛の語らいをしたいとかでも無いから安心してくれ」
「では…何が目的なのだ」
「――10日程前だ、魔導王朝騎士から闇討ちされた。
その話をしたい」
「…なに?」
鞘にかけていた手が離れたが、今度はガーベラの視線が険しくなる。
「冗談では無さそうだな…。
場所と時刻は?その者の特徴は?
そもそも、なぜ魔導王朝騎士だと判断したのか?」
「それも含めて今から俺の知る限り、覚えている限りを全て話す。
だからお前も話せることを全て話してくれ。
事実だけじゃなく、お前の意見、考え、予想、感想…その他諸々だ」
「…分かった。
機密に関しては口外できぬが、それ以外は全て話すと約束しよう」
「それで良い。
あの日の夜、俺は1人で剣を振るっていたんだが…」
真夜中の鍛錬場に突然現れた1人の魔導王朝騎士。
ガーベラ達と同じ高級士官服に身を包んでいた。
幾つかの言葉を交わした後、剣を抜いて戦いを始めた。
しかし結果はイスターの惨敗であり、男からは見逃された。
一連を聞き終えたガーベラだったが、釈然としない面持であった。
「信じられんな…貴様は素行不良騎士だが、剣の腕だけは私と互角。
その貴様が圧倒されるなど…」
「あぁ、アイツは只者じゃなかった。
あれだけの剣の腕前…おそらくは叔父貴と同じ境地に到達してやがる」
「貴様の叔父上と言えば、トーク新法皇のことだな。
若かりし頃は神聖法国の最強騎士と謳われていたと聞く…。
だが、なぜその者が魔導王朝騎士だと断言できるのだ?
高官用の制服に身を包んでいたからといって、王朝騎士とは限らんだろう?」
「あの男が口にしていた大公殿下や宗主陛下への忠誠、お前と同じ尊敬の念が込もっていた。
それに…あれだけの剣士が、そんなに軽々しく嘘をつくとも思えねぇよ。
アイツは間違いなく魔導王朝騎士だ…!」
「ふむ…」
いつしか座席の端からイスターの近くへ、ガーベラも腰を動かしていた。
腕を組み、神妙な顔つきで出すべき言葉を選んでいる。
「…私個人に心当たりは無いな。
だが、私とて魔導王朝全ての騎士の顔と名前を把握している訳でもない。
貴様の言う通り、騎士の誰かが暴走して闇討ちを仕掛けた可能性もある…」
「いや、あれだけの男が知られていない筈が無ぇ!
魔導王朝への忠誠心、剣の腕前、人間性、名が埋もれるなんて信じられねぇよ!」
「しかし…そうは申してもな…。
もしや、剣の腕を隠して王朝に仕えてる騎士という可能性も無くは無いが…。
お前や私を剣で子供扱いできる程の使い手など…」
神聖法国にも魔導王朝にも、2人以上の剣の達人は存在する。
だが、そこまで実力的に圧倒できる人材となれば、容易に名前が出てこない。
「済まないが、その件に関しては騎士団長復帰後に対処しよう。
今の状態では何とも答えようがないからな。
改めて王朝内を捜査し、真実を明らかにせねばな…」
「あぁ、悪いな」
「礼など言わずとも良い。
あくまで私は、魔導王朝の騎士として厳粛に対処するだけだ。
仮に貴様の言う通り、魔導王朝騎士だと判明すれば私からも謝罪を約束する。
私とて魔導王朝の一員だ、ならば同胞の過ちを共に償わねばならん。
王朝の法に則り、然るべき罰則をその者に与えることも約束しよう」
「いや、そんなのは望んでねぇよ。
探しては欲しいが、闇討ちの件で罰を与えて欲しいわけじゃない…」
「ならば何だ?
断っておくが、貴様の復讐に手を貸すなど言語道断だ。
闇討ちも許せぬが、だからといって私怨の報復など絶対に認めぬからな」
「仕返しでもねぇよ…」
「ならば何だと言うのだ?
貴様は闇討ちを仕掛けた魔導王朝騎士に何を求めているのだ?」
「それは…」
ガーベラに問い詰められ、逃げるようにイスターは窓の外に視線を移した。
「そういや…なんで俺はアイツに会いたいんだろうな…」
「はぁ?貴様は一体何が言いたいのだ」
イスター自身、自分の気持を整理できていなかった。
闇討ちを仕掛けてきた相手ではあるが、あの騎士に怨恨といった負の感情は湧かない。
「…悪い、本当に悪い。
話を振っておいて本気で悪いが、俺はアイツにもう一度会いたいだけなんだ」
「では、会ってどうするというのだ?」
「分からねぇよ…今は。
この旅の目的の1つは、それをハッキリさせることかもな…」
巫山戯た言動が印象的な男だが、偶に真剣な表情を見せる。
ガーベラも表面上はイスターと対立しているが、内心で認めるべき処は認めていた。
「…随分、立派な騎士だったようだな」
「あぁ、敵ながら見事な男だった。
魔導王朝騎士だが、俺の騎士団に誘いたい程な。
俺は中等部の頃、神聖法国騎士団の実態に嫌気が差してしまったことがある。
騎士なんて、こんなモノかよ…ってな。
それ以来、修行を放り出して…遊び歩いて…散々馬鹿やって…。
しかし、今になって思うんだよ。
もしも傍にあんな男が…騎士の見本みたいな男がいればってな。
俺だって道を踏み外したりせず…もう少しはマシな騎士になってたんじゃないかって…」
「イスター……貴様…」
「おそらくあの男は、俺が子供の頃から思い描いていた理想の騎士像なんだろうな。
そうさ、まさしく俺の目指すべき騎士だったんだ。
誰よりも強く、誰よりも格好良く、そして誰よりも母国を愛していて…。
白状するがな、俺はお前と違って未熟者なんだとも最近は思う時が多いぜ?
道標が無ければ迷ってばかりの俺と違って、お前は真っ直ぐに歩いてるんだからな…」
「フン、知ったようなことを言うな…。
私とて…私とて、道を踏み外してばかりだぞ?
それでもこうして騎士団長の地位に居られるのは、多くの方々の導きが在ればこそだ…」
イスターもガーベラも、別々の窓を眺めていた。
流れる風景は違うが似通っており、2人の思惑も決して離れてはいない。
「…いいや、お前にはやっぱり敵わないと思うぜ」
「そう、卑下せずとも良い。
確かに貴様よりは勝ってるかもしれんが、そうだとしても僅差に過ぎん」
「いいや、お前の方が明らかに上だ。
なぜなら俺は…闇討ちされるまで、シロの機動兵器を全く操れなかったから…」
「…何だと?」
「そうさ…何もかも白状しちまうがな、あの時の俺は行き詰まってたんだよ。
シロから譲られた機動兵器を、使徒達のように全然使えなかった。
だから、何歩も前に進んでいたお前を見て、俺は焦るしかなかったんだ。
そうで無ければ、真夜中に一人で鍛錬なんかしてねぇよ。
そんな焦っていた俺を見かねて…あの騎士は闇討ちに見せかけて教えてくれた…気がする」
久しぶりにイスターと再会した時、ガーベラは自身の知覚融合を披露した。
鉤爪一本だが、自在に操る様を目の当たりにすれば焦燥感に駆られるしか無かった。
「だから俺とお前は違うんだよ。
自力で操れるようになったお前と違って、俺は手助けが無いと何も掴めなかった…」
「…いや、それは違うぞ」
「なにがだ?」
「私も…機動兵器の操り方を教わった……と思う」
「思う…?どういうことだよ、それは」
「私だってハッキリと説明できんのだ。
最初は分からなかったが、後になって落ち着いて考えてみれば教えられたとしか…」
「…ソイツは誰なんだ?」
身を乗り出して、今度はイスターがガーベラに詰め寄っていた。
「誰に教えてもらったんだ?
ソイツは魔導王朝騎士じゃないのか!?」
「……近い」
「は?」
狭い車内、勢い余ってガーベラの顔間近にまで迫っていた。
指摘されて初めてイスターは気付いた。
「そ…そう近寄らずとも話はできるであろう…?」
「す、すまねぇ…!」
慌てて身体を離したが、ガーベラの顔が僅かに紅潮しているまでは気付かない。
「そ、それで…誰に教えてもらったんだよ?」
「そうだな…誰にも話さぬと決めていたが、貴様も多くを話してくれたのだ。
ならば、私も返礼で話さねばならないが…秘密だぞ?
今も頭上で控えている機動兵器の操り方を教えてくれたのは…ティアだ。」
「…ティア?
今は別の馬車に乗ってる、あっちのティアのことか?」
窓からでも見える、他の荷馬車の一群。
あの中にアキヒト達と同乗しているティアの荷馬車も含まれていた。
「そもそもだ、私は魔導王朝騎士団長の要職に就いておる。
それでも、今回の南方行きを決意した理由がティアなのだ。
色々とあるが、機動兵器の操りに長けている点に関して確認したくてな…」
「そうか…成程な」
「どうした、驚かぬのか?」
「いや、以前ティアと揉めそうになった時が有ってな。
その時に単なる女中で無いのは薄々勘付いていた。
だが、機動兵器に関してまで通じているとは予想もつかなかったな…」
「何かあったのか?」
「あったと言うか、実際に揉めてはいないんだがな」
「詳しく話してみよ、話さぬとは言わせぬぞ」
「それは構わないんだが…」
「なんだ、何か他に気になることでもあるのか?」
「いや、違う…良い機会だから、徹底的に意見交換と情報共有をしないか?
どうも俺達2人、互いに知っておくべきことが多いように感じてな」
「ふむ…確かに…」
「予定では、次の宿営地でアキヒト達と合流する積もりでいたんだ。
それまでには俺達の話も終わると思っていたんでな。
しかしこの際、竜都ドラクータまでの道中は2人だけの会談を提案したいが、どうだ?」
ガーベラは口元に手を当てて考える素振りを見せたが、時間はかからなかった。
「但し、話せる範囲という条件付きでならな。
貴様とて魔導王朝の騎士団長に何でも話せる訳でも無かろう?」
「決まりだな」
手始めにイスターは、昨年アキヒトを飲みに連れて行った翌朝の出来事を話し始めた。
2人だけの、こうして腰を据えた長時間の会話は初めてだった。
イスターとガーベラが、互いに名を知ってから1年余。
神族と魔族の若き才能が、ようやく協力体制を敷くことができたのである。
次回 第113話 『 " M.C."の騎士(1/4) 』