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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦後から第4戦 までの日常及び経緯
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第106話 『 逃げよ 逃げよ 全ての街から逃げよ(1/5)(後編) 』



「……ッ!」


見惚れていた…が、我に返った瞬間、イスターは慌てて飛び退くと男から距離を取っていた。

対称的に長剣の騎士は微動だにせず…変わらず満天の夜空を仰いでいた。


「だ、誰だテメェ!」


「見ての通りだ…魔導王朝の騎士である」


「何してやがる!?」


「見ての通りだ…月夜を愉しんでいる」


「何しに来やがった!?」


「見ての通りだ――」


男は初めてイスターの方に視線を向けた。


「闇夜に護衛も無しの神聖法国騎士団長が1人…用件など一つしか在るまい」


「ケッ…闇討ちは結構だがよ、その剣が抜けんのか?」


朧げな月の光だけでもイスターには見える。

魔導王朝騎士は大仰な程の、地面に剣先が触れそうな程の長剣を腰に差していた。

通常の剣士ならば長すぎて鞘から抜くのも困難であろう。


「フッ…」


しかし男は柄に手を掛けるや、するりと造作も無く剣を抜いた。

暗闇に剣身が鈍く光る。


「少しはできるようだな…」


距離を取りつつ、イスターは周囲を探っていた。

唯一武器になりそうな鍛錬用の木剣も、今では粉々に砕け散っている。


「…使うが良い」


魔導王朝の騎士が放り投げ、咄嗟に受け取ったのはイスターが常用している剣だった。


「フンッ…用意が良いじゃねぇか」


「誇り高き魔導王朝騎士は、丸腰相手に剣を振るわぬ。

 でなければ大公殿下の方々や宗主陛下の名まで汚すことになろう」


「上等だよ、返礼代わりに全力で相手してやる!」


イスターもまた剣を抜くと、鞘を放り投げて切っ先を魔導王朝騎士に向けた。


「神聖法国の天才騎士団長!イスター様の剣を…」


男は剣を抜いただけで構えてすらいない。

けれども、イスターには彼我の実力差が分かってしまった。


法国騎士団長イスター・アンデルは、大言も多いがそれに見合った実力を持っている。

特に剣に関しては抜きんでており、法国内で並ぶ者はそう多くは無い。

その実力者ならばこそ、魔導王朝騎士が遥かな高みに位置する存在だと感じ取った。


「……ッ!」


踏み込まれたイスターの渾身の剣戟を、男は涼風の如く躱した。


「クッ…!」


己の最速の剣戟を何度も繰り出すが、男は眉一つ変えることなく躱し続ける。

更に、その動作一つ一つが洗練されているのが分かる。

イスターも達人の域に達しつつあるが、眼前の魔導王朝騎士とは比較にならない。


どれだけ打ち込んでも全てが空を切る中、イスターは昔のことを思い出す。

中等部に上がったばかりの頃、剣の講義中に威張っていた上級生を叩きのめした。

担当の講師達すらも相手にならず、誰もイスターには敵わなかった。


そんな時に実父の兄、イスターにとっては叔父にあたる人物が姿を見せた。

パラパレス神学校の稽古場、木剣を持っての模擬戦で打ち合う事になった。

叔父が神聖法国最強の騎士と呼ばれていたのは幼少の頃から知っていた。

だがそれも昔の話であり、当時は既に第一線からは退いて久しかったことも。


『20年早く産まれたかったぜ!』


全盛期の叔父と戦いたかった、とイスターは鼻高々に木剣を向けた。


しかし1分後には稽古場で大の字になって倒れ伏していた。

確かに全盛期は過ぎていたかもしれない。

だが、それでも神聖法国の最強騎士と呼ばれたのは伊達ではない。


イスターが叔父に頭が上がらないのは単純な力量の差に他ならない。

それ以降も機を見ては剣で戦いを挑んだが、矢張り相手にならなかった。

そんな当時から密かに想像していたのは、全盛期の叔父の実力。


可能ならば、若かりし頃の叔父と剣を交わしたかったとも思っていた。

そして今、イスターが戦いを挑んでいるのは同等の実力者。


全盛期のパラス神聖法国最強騎士、トーク・アンデルと並ぶ剣で在るのを悟った。




「……チッ」


百を越える剣戟も全て空を切り、イスターは下がって間合いを取った。

更に千の剣戟を加えても、一つとして掠りもしないだろう。


「…覚悟はできたか?」


男が握り手に力を込め…これまで一度も振るわれなかった長剣が殺気を帯び始めた。


「い…今までは遊んでたのかよ!?」


「実力差も分からずに斬られては、貴様も浮かばれぬであろう…」


「誰が斬られるって言うんだ!」


「――ならば受けてみよ」


長剣が煌めいて光の線を描き…男が初めて構えを執った。

水平よりも大きく下げた剣先が上に向けられ、斬り上げを狙っているのが分かる。


けれどもイスターは直感的に訝しんでいた。

あれだけの長剣、重量も相当であろうのは想像に難くない。

なのに下段の構えでは機敏に動けず、初動に遅れが生じるであろう。



 …あ?


自らの剣先が震えていた。


 なんだ…?


震えていたのは剣先では無い…指先が震えていた。

いや、それもまた違う。


 な…!?


己の身体が…イスターは自身が震えていたのに気付く。


 まさか…


男と対峙し、ようやく己の置かれた状況が理解できた。


 俺は――死ぬのか…?


そう…イスターは本能で自身の死を予感していた。



眼前の男が攻撃を始めた瞬間、自身の生命の火が消え去るのを確信した。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――


****所属旗機


第三種汎用小型機動兵器 "*******"


全長26メートル


・超光速粒子反応機関搭載

・超高周波パルス電磁波砲2門

・第三世代生体大型輻射装置1門

・全方位誘導弾頭4門

・星系間跳躍機構搭載


・多次元潜航機能…解除中


以降、詳細不明


――――――――――――――――――――――――――――――――――――





それでもイスターは歯を食いしばり、決して後ろには退かない。

たとえ死ぬとしても、無様な真似は晒せない。


その時、イスターは地獄の窯の蓋が開く音を聞いた。



―――――――――『 第三種決戦兵装装填開始 』――――――――――



あの男が何をしているのか…何をしようとしているのか全く分からない。

だが、自分の死が確実に近づいているのだけは分かった。


時間にして残り数秒の命。


凝縮された余命に、イスターの感覚が最大限に高められた。



鍛錬場を吹き抜けていく涼風の音


鍛錬場に舞い上がる土埃の匂い


自身の額を伝っていく汗の感触


眼前の男のみならず月光に照らされた回りの景色



そして――



シロより譲渡されて一ヶ月。

この時、初めてイスターは触れた。



「――参る!」


魔導王朝騎士の掛け声の瞬間、両者の頭上で2つの影が激突した。


「ぐっ…!」


鍛錬場に鈍い轟音が鳴り響く。

只でさえの暗闇に、大量の土埃が舞って視界が奪われた。

しかし、それでもイスターには見えていた。

自身と魔導王朝騎士で挟んだ地面には巨大な亀裂が奔っているのを。


「コイツが…」


イスターの頭上には、ガースト・リーダーの巨大な鉤爪が実体化していた。

試しに念じてみれば、鉤爪は自身の思い通りに動いてくれる。


魔導王朝騎士の何らかの攻撃と、この鉤爪の一撃が相殺されたのを悟った。



「…世話が焼ける」


既に男は長剣の構えを解いていた。


「お…お前は…!?」


イスターが声を掛けるよりも早く、魔導王朝騎士は背中を向けていた。


そして、去り際に長剣を天高く放り投げる。

中空で回転しながら舞い上がり、勢いを失うと落下を始める。


彼は鞘を掴んだまま、左手を高く掲げて…。


吸い込まれるように落ちてきた剣身が収まった。



「――御無礼」



砂埃が高く舞い上がり、イスターの視界を大きく遮った。

急いで亀裂を飛び越えて男の姿を追おうとするが、辺りには誰もいなかった。


「な…なんだってんだ…」


夢では無かった。

鍛錬場を切り裂いた巨大な亀裂、始めての大型機動兵器との知覚融合。


そして男の姿と声だけは決して忘れることができなかった。




法国騎士団の詰所に戻った頃、大半の団員は帰途に就いていた。

鍛錬服のまま着替えもせず、イスターは副騎士団長の部屋の扉を開けた。

執務中らしく自身の席で書類の山と格闘しているノーカの姿があった。


「長い鍛錬だったな…。

 どうでも良いがノックくらいしろ。それでもお前は騎士団長なのだぞ…」


「…突然で悪ぃが、騎士団を預かってくれねぇか?」


書類に目を通していたノーカが、顔を上げた。


「しばらく俺は修行に行ってくる…その間、アンタが連中を纏めてくれ」


「あのなぁ、坊や…。

 自分で何を口にしているのか、分かっているのか?

 お前が行き詰っているのは理解できるが、仮にも騎士団長なのだぞ?

 少しは自覚を持ってだな…」


「たった今、闇討ちされた」


呆れた表情のノーカだったが、その言葉に一瞬で引き締まっていた。


「返り討ちしたのか?」


「…そうしてやろうと思ったが、全然敵わなかった。

 俺なんか闇討ちする価値も無かったらしくて、ソイツに見逃された」


「坊やが敵わなかっただと…」


ノーカもイスターの実力はよく理解している。

この男を圧倒できる実力者など、神族や魔族、亜人を含めても簡単に思い浮かばない。


「――そうさ、アンタの言う通り俺はまだ"坊や"だ。

 まだ俺なんかが騎士団長の座に就くには早い。

 せめて闇討ちされる価値くらいは付けておきたいって訳さ」


「自分を坊やと呼ぶのか?」


「あぁ、俺はまだ"坊や"さ。

 アンタから"イスター坊や"呼ばわりされても仕方ないのが分かったよ。


 いや…アイツが教えてくれたのかもな」


副団長ノーカが息を付くと、頬杖をついて何か考える素振りを見せる。

だが、数秒も経つことなく更に大きくため息をついた。


「…分かった、しばらく私が預かろう」


「恩に着るぜ」


「お昼に来ていた令嬢の話…南方行きだったかな」


「あぁ、自分を鍛え直して来る」


「ならば騎士団の面倒と並行して、闇討ちの方も調べておかねばな…」


「それは必要無ぇさ、俺が何とかするべきことだ。

 いや、俺に任せてくれ!」


「…かなりの手練れなのだろ?」


「だからさ!今は全く相手にならなかったが、次は喰らいついてみせる!

 でなけりゃ俺はいつまで経っても"坊や"だ!」


「ハハ、お前は本当に坊やだな…」


神聖法国の軍神とさえ呼ばれたノーカが、楽し気に笑っていた。


「分かった、その件もお前に一任しておこう。

 …だが、無理はするなよ?

 一応騎士団は預かっておくが、お前は神聖法国の騎士団長なのだからな」


「俺は簡単に死なねぇよ、ノーカ様。

 それより、団員を厳しくしごいてやってくれよ」


「お前こそ、帰ってきた時に何の成長も無ければ覚悟するのだな。

 我等8人で徹底的に鍛え上げてやる」


真夜中の執務室から、騎士団長と副団長の笑い声が漏れていた。

この日より法皇直属騎士団はノーカが騎士団長代理として統率することになった。




翌朝、法国騎士団の宿舎。

食堂にて、イスターの馴染みの騎士団員達が集まって朝食を摂っていた。


「おい、お前ら」


イスターが声を掛けたが、仲間達の反応は冷たく素っ気無かった。


「何か用ですかな、騎士団長サマ?」


「俺達みたいな平団員に何の御用ですかな?」


昨日の件を根に持ってか、男達の言葉にはトゲがあった。


「ノーカ様に朝の会議は遅れると伝えてくれ」


「はぁ、そうですか」


「騎士団長サマは朝からお忙しいことで…」


構わず、イスターは男達にハッキリと告げた。


「あぁ、1人…声をかけておきたい女の子がいてな。

 少しでも早く会って話をしておきたいんだ」


男達の視線が一斉にイスターへ向けられた。


「悪ぃ、すまねぇがノーカ様達には上手く言っておいてくれ!」


「…良いぜ、行って来い!後は俺達に任せな!」


「半日くらい、じっくり会って話をしてこいよ!」


男達は白い歯を見せながら、イスターに激励の言葉をかけた。

仲間達の声援に背中を押され、駆け足で騎士団宿舎を出て行った。




ボーエン王国立大学構内。

その朝も普段通り多くの学生達が正門を抜けて、学び舎に向かって歩いて行く。

中に背の低い少女が1人…ディオーナも1人歩いていた。


しかし、普段とは違って表情は重い。

騎士団の人達に励まされはしたものの、イスターのことを気にしていた。

これまで常に陽気だった男に、これからどう接して良いか分からず憂鬱だった。


「よう!」


突然の声に顔を上げれば、そのイスター本人が立っていた。

しかも学生時の私服とは異なり、正規の騎士装束である。


「あ…イスターさん……」


「今日は騎士団勤めでな、こんな格好で会いに来て悪い!」


一瞬、戸惑いの表情を見せたディオーナだが、出すべき言葉は決まっていた。


「き、昨日はごめんなさい…私、イスターさんに…」


「いや、待ってくれ!

 それより俺の話を聞いてやってくれ!」


すると騎士団長の装束のまま、イスターはディオーナの前に立ちはだかり…。


深々と頭を下げた。



「悪い!昨日は本当に悪かった!」


「…え」


「お嬢さんに八つ当たりなんかして、俺が本当に悪かった!

 許してくれ!」


「イ…イスターさん、そんな…」


「お嬢さんが許してくれるまで俺はここから動かねぇ!

 すまなかった!本当にすまなかった!」


「も…もう良いですよ!

 許します!許しますから、顔を上げてください!

 今は講義前で、回りにも人が!」


イスターとディオーナの2人に、学生や講師達が奇異な視線を送っていた。

居たたまれない少女の声に、慌ててイスターも顔を上げた。


「あぁ、悪い悪い。

 けどよ、お嬢さんには一秒でも早く謝っておきたかったんだ」


「分かりました、分かりましたから…」


「それからアキヒトの南方行、俺も行くぜ」


「え…けど、騎士団の方が…」


「騎士団がどうかしたか?

 俺にとっては助けを求める女の方が遥かに重要なんだぜ?」


驚くディオーナだったが、安堵したのか声を立てて笑い始めた。


「どうかしたかよ?」


「いえ、安心して……いつものイスターさんだったから…。

 騎士団長になっても変わらないなって…」


「なに言ってんだ、あったり前だろ!」



ディオーナの前で胸を張り、親指を立てて誇らしく自身に向けた。



「何になろうと俺の中身は変わらねぇよ!

 騎士団長の看板より、イスター・アンデルの名前の方がデカいんだぜ!?」



第107話 『 ガーベラの潜航艦隊(1/3) 』

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