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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦後から第4戦 までの日常及び経緯
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第101話 『 イスター受難の日々(前編) 』


大陸歴997年4月下旬

パラス神聖法国、聖都パラパレスにて大規模な式典が執り行われた。


新法皇トーク・アンデルと法議院に名を連ねる全ての枢機卿。

そして神聖法国の上層たる各地の大司教達が大神殿前に整列していた。

この式典に際し、聖都のみならずパラス神聖法国全土から信徒達が駆け付けていた。

その熱気は先日のトーク・アンデル新法皇就任式にも劣らない。


壇上には8人の美しい少女の姿があった。

法国民ならば誰もが知る神聖法国の守護の要である使徒達。

その後ろには50名の若き神聖法国騎士達。

普段なら着衣の乱れも気にせぬ無頼の集まりだが、今は身綺麗に揃えていた。


「前に」


トーク新法皇より声が掛かり、1人の青年騎士が神殿に続く大理石の階段を登っていく。

一歩、また一歩と踏み上がっていく様に20万を越す信徒達の視線が注がれる。



大陸歴976年生誕

6歳にて神学校へ入学後、文武両面でみるみる頭角を現した。

若干9歳で中等部までの全教程を修了。

剣技においては高等部の上級者にも引けを取らなかった。

学に於いても、一旦口を開けば理路整然とし教師達でさえ言葉を詰まらせる。

そして小等部卒業の際、余興とはいえ列席した騎士との試合で打ち勝つ。

歴戦の法国騎士さえ剣技で圧倒する少年。

誰ともなく人々は、こう呼んだ。


 神童、と


しかし騎士団配属後は人々を失望させる場面が多かった。

騎士としての勤めは疎かとなり、幼少の頃を知る者達は眉をひそめた。

それでも叔父であるトーク枢機卿を初めとする少数の者達は辛抱強く見守っていた。

身内贔屓と陰口を叩かれながらも、青年は騎士団に所属し続けた。


そして勇者勧誘の命を受けた大陸平原同盟への赴任。

彼にとって立身する最後の機会となる筈だった。

勧誘した勇者の如何によって、新設される騎士団長の椅子が与えられる。

しかし、それでも行状は変わらず、上司である騎士団長からの評価は最低。

それまでトーク枢機卿の計らいで留まっていたが、それも限界だった。

勇者勧誘の任から解かれ、騎士団からは除籍。


新騎士団長就任の望みは完全に断たれたかと思われた――が



8人の使徒達が首を垂れ、42名の騎士達が続いた。

項垂れた新騎士団員50名の前を悠然と進み、青年は新法皇の前で膝を付いた。


「其方を新たな騎士団長へと任命する。

 この宝剣を以て、パラス神聖法国を守護せよ」


「…謹んで御受け致します」


金銀の装飾が散りばめられ、法国の紋章が刻印された一振りの剣。

新法皇より、騎士団長の証が授与された。


その瞬間、都パラパレスに割れんばかりの歓声が響き渡った。


トーク・アンデルの法皇就任と同時に、イスター・アンデルも騎士団長に就任した。

名目はパラス神聖法国、法皇直属騎士団長。

以前から新設の予定はされていたが、法皇就任と同時に正式に発足した。


宝剣を授与されたばかりのイスターに、中年の夫婦が歩み寄ってきた。


「…やはりオマエは私達とは違う。

 トーク兄さんと同じ人種だ…アンデル一族の血を最も濃く受け継いでいる。

 小さい頃から、そんな気はしていたが…」


「俺は俺だよ、叔父貴とは違う」


「そう、お前はお前だ。

 ひょっとしたらトーク兄さんさえも越えてくれるかもな…」


「…という訳で、前に話していた領地経営の件は保留にしておいてくれ。

 一応、こんな役を受けたからには当分無理だからな」


「心配せんでも良い。

 お前はお前の責務を全力で果たすのだぞ」


「あぁ、分かってるよ。

 親父もお袋も俺が帰ってくるまで元気にしてろよな」


髪に白いモノが混じった、人の好さそうな中年夫婦。

両親にも祝福され、イスターは名実ともに騎士団長へと就任した。



構成は団長のイスターを始め、使徒達8名と仮団員だった故郷の仲間達42名。


「お前は当分外地で見聞を広めながら修行しておけ。

 今は本国の心配などせずとも良い」


叔父のトーク法皇より、ボーエン王国城塞都市の駐留を命じられた。

現在、神聖法国は新回廊開通で全てが変わりつつある。

旧回廊の"法国の盾"は最低限の要員を残して全ての人員を引き揚げさせた。

予算も大幅に削減され、今は付近の野盗対策等の治安維持拠点でしか無かった。

反対に新回廊側に膨大な予算と人員、物資が投じられつつある。


「俺は何もしなくて良いのかよ…」


「変わるのは法国だけでは無い。

 これから大陸全ての諸国家が変わっていくであろう。

 その時代の変革を見届けるのがお前の仕事であり役割だ」


事実、神聖法国という市場の出現は魔導王朝、南方諸国にまで影響を与えるであろう。

それは経済のみならず、政治的にも大きな変革をもたらす。


「それにだ…使徒の方々は700年もの間、聖都パラパレスから離れられずにいた。

 外の世界に出て、羽根を伸ばされるが良かろう。

 ただ見知らぬ土地で不慣れだろうから、お前が案内をしてやれ」


「あぁ、分かったよ」


イスター自身に不服は無かった。

これまでの使徒達の境遇を思えば、叔父のトークの心情や気遣いは誰よりも理解できた。

今までの窮屈な思いをさせた分、思う存分自由に羽を伸ばせば良いだろう。


…と、ボーエン王国へ赴任するまでイスターは思っていた。

そして騎士団長に就任すれば多忙もある程度は覚悟していた…つもりだった。



「どうするんだよ、コレ…」


団員の1人が力なく呟いた。

イスター新騎士団長の最初の仕事は、入団希望者の対応だった。

聖都パラパレスの騎士団詰所に入りきらない者達の数、200名以上にも昇る。

所属未定の現役騎士や騎士見習が全国から駆け付けていた。

中には既存の騎士団を強引に抜け出し、転属を希望している者達もいた。


法皇直属騎士団という新たな名称。

騎士団長は以前から神童と噂されていたアンデル一族の秘蔵っ子。

神聖法国にとっては史上最年少騎士団長となる。

しかも構成団員の中には、法国の守護神と崇められる8名の使徒達。

間違いなくパラス神聖法国の最高戦力であり、時代の舵取りを担う存在であろう。

ならばと、各地から腕利きの騎士達がイスターの元へと集いつつあった。


「みんなよく集まってくれた!

 俺が騎士団長になったイスター・アンデルだ!」


近くの高台から、全ての志願者に呼びかけた。


「入団希望は嬉しいぜ!

 だが知っての通り、俺達は最前線で戦わなくちゃならねぇ!

 俺も含めて、生きて還れる保証は何処にも無ぇんだ!

 それだけの覚悟が在んのか!?

 少しでも迷ってる奴は引き返してくれ!

 それは恥じゃ無ぇ!

 誰だって一つしか無い命、賭け処を選ぶ権利は在るはずだ!」


イスターの言葉に耳を傾ける200名以上の入団希望者達。

全員が精悍な顔つきで眼差しを送り、背を向ける者は1人もいなかった。


「…良し、お前達の入団を認める。

 今日から俺達は仲間だ、よろしくな!」


「おい、良いのかよ。

 通常の騎士団規模は多くて60~70人程度だぞ?」


「そんな小せぇこと、気にすんなよ。

 俺達が今から戦うのは、全く未知の存在の『黒い月』なんだぜ?

 前例なんか犬にでも食わせておけ」


昔馴染みの騎士達の懸念も軽く流し、全てを受け入れようとしていた。

入団希望者は更に増え続けるが、イスターの気が変わることは無かった。



その入団希望の猶予期間も兼ね、最後の休養期間を設けた。

赴任先であるボーエン王国へ出立する前に、全騎士団員へ帰郷を命じていた。


聖都パラパレスから西へ一日余り馬車を走らせると、イスターの故郷である。

破天荒な本人とは裏腹な、のどかで緑豊かな土地だった。

ボーエン王国では繁華街を頻繁に回っていたが、本人は田舎も嫌いでなかった。



「お坊ちゃん、お出掛けですか?」


「あぁ、少し散歩してくるよ」


休暇の最終日、イスターは庭師に見送られて屋敷の門を出た。

地元では有名なアンデル家の広大な屋敷だが、中は質素で飾り気は無い。

イスターの派手好きな面を知っている者達にすれば、意外に思うであろう。


領地と言っても、家屋が疎らで街らしい街は無い。

田畑や家畜の放牧が視界に入るのみで、緑豊かな光景が広がっている。



イスター自身、久しぶりの休暇を満喫していた。

屋敷に帰ってきたのは5日前だが、これまで地元のお祝いが止まらなかった。


『あの悪童が、こんなに立派になって…!』

『イスター坊ちゃんには、本当に手を焼かされましたね』


聖都パラパレスでの面会希望とは異なり、本当の意味でのお祝いであった。

昔から迷惑をかけてきた人々からの、裏表の無い言葉。

イスター自身も迷惑な存在だったのは自覚しているため、断りきれなかった。



1時間ばかり1人で歩き回った後、辿り着いたのは小高い丘。

生まれ故郷を一面に見渡せる、昔からのお気に入りの場所であった。

傍に在った石に腰を降ろし、イスターは頬杖をついた。


蒼い空と白い雲…涼風が吹き、小川のせせらぎが聞こえる。


何をするでも無く、イスターは生まれ故郷の光景を眺め下ろしていた。


「…そろそろ出てきたらどうだ?」


不意に独り言を洩らす。


「用が有るから、後を付けてきたんだろ?」


「…へぇ」


背後の木陰に何者かが立っていた。


「いつから気付いてた?」


「東の麦畑を越えて、二つ並んだ風車小屋を通り過ぎた頃だな」


「ふぅん…少しは成長したようだね」


イスターよりも若い…澄み渡るような少年の声だった。


「用ってことも無いんだけどさ、ター兄には最後に言っておきたいことがあってね」


「お前が俺に…?何だ?」


「――失望したよ」


その少年の声には僅かながら侮蔑の感情が込められていた。


「僕はね、これでもター兄のことを評価していたんだよ?

 法国のくだらない騎士連中とは違うって…。

 出奔の話を聞いた時なんか、流石はター兄って感心さえしていたのに…」


「お前は騎士団長就任を祝ってくれないんだな」


「ハハ…もしかして僕からの賛辞を期待してたの?

 だとしたら、相当おめでたいね。


 それともさ…その大きな魔物を手下にして舞い上がってるの?」


故郷を見下ろすイスターの表情に変化は無い。


「…お前にも分かるのか?」


「この僕が分からないとでも?

 使徒の方々にも同じくらい失望してるよ。

 巨大な力と引き換えに、剣士としての矜持を捨てて…情けないよね。」


現在、イスターの背後上空に控えているのはシロから授与された大型機動兵器。

光学的にも完全に姿を隠しており、通常の五感で察知は不可能。


しかし木陰の少年は存在を知覚していた。


「それだけだよ、僕が言いたかったのは。

 精々、ター兄は神聖法国のお偉方の利権を守るために戦ってね」


「…俺もお前に用があった。

 だから、こうしてお前が後を付けるのを待っていた」


「へぇ…この僕に今のター兄が何の用?

 まさかと思うけど、騎士団に入れなんて言ったりはしないよね?」


「お前、成績がかなり良いそうじゃないか。

 聞いたところじゃ、来年期の単位まで全て取得済だとか」


「それがなに?」


「どうせお前のことだ、大学へ進学する気も騎士団へ入団する気も無い。

 近いうちに神聖法国を見限って出奔するつもりじゃ無いのか?」


「…だったら、どうだって言うのさ」


「叔父貴から話を聞いたんだがな、これから魔導王朝との交換留学制度が始まる。

 出奔する前に、それだけ参加しておけ」


「…用ってのはそのこと?」


「あぁ、そうだ」


「――くだらない」


木陰の人物が背中を向けた。


「…俺はアコン山脈の外に出て、あの3人を見てから考えが変わった」


立ち去ろうとしていた人物の歩みが止まる。


「1人はボーエン王国在住のレスリー・アグワイヤ先生だ。

 法国や王朝、南方諸侯連合からも信頼の厚い人物だ。

 当然、お前も名前くらいは聞いたことあるだろ?」


「名前くらいはね」


「あの人の講義を聞いて、俺は色々と考えさせられたよ。

 学ぶとは何なのか…果ては、俺達はどう生きるべきなのか…とかな。

 法国も王朝も、高官達からの評価が高い理由が分かる気がした」


「ふぅん…」


「2人目は魔導王朝宗主のヴリタラだ。

 500年前、神聖法国軍は敗走したなんてのは単なる昔話だと思ってた。

 年月が経って、魔王の強さに尾ひれがついて誇張されてるだけとな。

 …しかし、実際に戦ってるのを目にして腰が抜けたよ」


「強かった…みたいだね」


「圧倒的だ…伝説以上の存在だった。

 本気出せば魔王にだって勝てる、なんて思っていた自分が恥ずかしいな。

 俺の中の価値観を粉々に砕いてくれたよ。


 それで、3人目は…」


「知ってる、兵団長のアキヒトだろ?

 そこまで言えば、ター兄の言いたい事なんか分かるよ」


「…お前は俺にとって弟みたいな存在だ。

 だから一族の兄分…不甲斐無いが兄貴分として最後の教えだ…この3人に会え。

 とはいえ実際の話、ヴリタラに会って話なんてできる訳がないけどな。

 しかしだ、せめてレスリー先生とアキヒトには、一度会ってみろ。


 それで何も感じなければ出奔するなり好きにすると良いさ」


「そのために留学制度に参加しろと?」


「単位揃って暇なんだろ?

 俺はこれから任地のボーエン王国へ出立する。

 "黒い月"との戦いが始まれば、もう生きて還ってこれないかもしれない。

 だからガキの頃から一緒に過ごした弟分への…俺からの最期の言葉と思ってくれ」


「…考えておくよ」


イスターは一度も振り返ることなく、木陰の少年も顔を見ずに立ち去って行った。

その後、暫くして立ち上がると何事も無かったように屋敷への帰途へ付いた。


2日後、聖都パラパレスに到着すると、騎士団は300名以上に膨れ上がっていた。

イスターは希望者全員の入団を認め、改めて編成が完了した。

そして騎士団の先頭に立ち、任地であるボーエン王国へと出立した。



…以前から同年代の魔族の女騎士団長、その多忙を他人事として見ていた。


頭の中では分かっていたはずだが、やはり分かってなかった。

新騎士団長ともなれば忙しくなるのは当然だが、そこまで忙しくなるとは。


「私、この都市の長を務めております。

 この度はイスター騎士団長の御目にかかれて誠に光栄で御座います…!」


行く先々で面会を求められた。

ボーエン王国に辿り着くまでに立ち寄った街のお偉方からの熱烈な歓待。


「団長殿、まだまだ希望者は後に控えてますよ…?」


イスターの騎士団に配属された事務担当士が疲れ切った声で告げた。


「…分かってるよ」


会わない訳にもいかない。

パラス神聖法国の新騎士団長ともなれば、顔を繋ぎたい者達も多い。

文字通り寝る間も無く対応に追われ、睡眠は都市間道中の馬上でのみ可能だった。


「こんな奴と昔馴染みなばかりに…!」


イスターの悪友達から、本人にも聞こえるように悪態が飛んだ。


「うるせぇな!諦めろよ!」


「諦めてはいるがな、言いたいことは言わせてもらうぜ!」


今更イスターの騎士団から抜けたいなんて口が裂けても言えなかった。

悪友達自身も、故郷では親族達から涙を流されて祝福された。

大きすぎる期待を背負わされて、この任務へと見送られた。


もはや故郷に自分達の居場所なんて無かった、


ようやくボーエン王国に到着しても、心が休まる時は無い。

在住する神聖法国関係者からの挨拶や歓待は延々と続く。

それが終われば、ボーエン王国のみならず大陸平原同盟の要人との会見。


この時、初めてイスターは知り合いの魔族の女の苦労が分かった気がした。



そして全ての会見を終えたイスターに、更なる困難が待ち受けていた。



「ぐわぁぁぁぁ!」


ボーエン王国城塞都市の練兵場で本日何度目か、イスターの断末魔が響き渡った。


「だらしない…!それでも騎士団長か!?」


全身の痛みで満足に身動きも取れず、地面に這いつくばったまま大使徒を見上げた。


「す…少しは手加減しろよ!

 こんなの訓練じゃねぇ!単なる拷問じゃねぇか!」


「やれやれ、最近の法国騎士は此処まで鈍っておったのか…。

 我々が騎士見習いの頃なら、この程度は準備運動に過ぎぬぞ」


イスターと騎士団員345名は、使徒8名から猛烈な特訓を受けていた。

これまでに幾度となく修羅場を潜ってきた猛者達から悲鳴が上がる。


「ほら!早く立たぬか!戦場で敵は待ってくれぬぞ!」


大使徒ノーカの背後に巨大な2つの鉤爪が浮かんでいた。

それが高速で振り下ろされれば視界から消え、次の瞬間には衝撃に襲われていた。


「がっ…!」


「トーク坊やからお前を厳しく鍛え直してやってくれと命じられていてな…。

 ここまで鈍っていたとは予想外だったよ」


「そ、そういう問題じゃねぇだろ!

 アンタ等の強さがおかしすぎるんだ!」


同じ練兵場の敷地内でも、7人の使徒達の背後に巨大な鉤爪が実体化していた。

繰り出される連撃に騎士団員達は為す術も無く、地に倒れていった。


使徒の力を無くしたが、彼女達は以前以上の力を得ていた。

シロから譲渡された巨大な魔獣を今では自由自在に操り、イスター達を翻弄している。

大使徒ノーカは今の自分なら魔王ヴリタラにも勝てると断言していた。

その時は大言としか思えなかったが、今ならそれも間違いではないと感じる。

今は鉤爪しか見せないが、本体は計り知れない程の強さを持っている。

最強の魔王と言えど、このガーストと呼ばれる魔獣には敵わないであろうと。


「我々が強いだと…ならばお前は何なのだ?」


「何の話だよ!」


「盟友のシロ殿から譲渡されたであろう。

 今にもお前の背後に控えている…その強さが分からんのか?」


姿は見せないが、今のイスターは気配だけは感じ取ることができる。

巨大な何かが宙空に浮かんで、じっと自分を見ていた。


「我々の魔獣…ではなくガースト級だったかな。

 それよりお前の兵器が遥かに強いのだが…」


「じょ、冗談だろ?

 多少アンタ達のと形は違うようだったが、そこまでは…」


「いや、かなり強い。

 だからこそ、お前の兵器が不満を抱いているのが私にも分かる!

 なぜ、こんなにも自分の主人が弱いのかとな…!」


 "ギギ…!"


どことも知れぬ、歯軋りにも似たガースト級の声が辺りに響いた。


「そうだと申しているぞ」


「嘘つけ!」


「どちらにしろ、お前は弱すぎる!

 最低でも我々より強くなって貰わねばな!」


立ち上がっては鉤爪に打ちのめされ、立ち上がっては打ちのめされ…。


…何度目であろうか。

練兵場の地面へ大の字に横たわるイスターの傍へ、魔導王朝の一行が近づいてきた。


「…ん?」


黒地に金の刺繍を施された王朝独特の高官服の面々が立ち止まる。

怪訝な表情になったノーカを他所に、先頭の女性がイスターへ話し掛けた。


「…元気そうではないか」


地面に横たわったイスターからでは、陽の光が眩しくて顔がよく見えない。

だが、その声で誰かはすぐに分かった。


「素行が悪くて騎士団長候補から外れたと思いきや、騎士団長第一候補に大抜擢。

 出奔して騎士から浪人に成り下がったと思いきや、今度は新騎士団長就任と大出世。

 全く、貴様という男は見ていて飽きんな。

 朝都インダラでも…いや、大陸全土を見渡しても貴様程の芸人はおらんよ」


「だ、誰が芸人だ!」


大の字に倒れ伏したまま、イスターが抗議の声を上げた。



数か月来の再会。


魔導王朝宗主直属騎士団長…ガーベラ・イーバーが柔らかく微笑んでいた。



次回 第101話 『 イスター受難の日々(後編) 』

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