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第六十三話 子捨て親捨て③

あれ?

昨日より短くなってしまいましたが、まだ続きます。

「……で、さっき間先生からも事情は再確認したとこ。

 あ、ありがと♪」


 お昼休み。

 渡瀬さんは雨守先生が差し出したコーヒーを一口。そしてふうっとため息をついた。

 あの晩、間先生は例の件を校長先生に報告し、翌日校長先生は県教委に報告……そして今日の渡瀬さんの調査なんだけど。


「お役所にしちゃ、随分早い対応だね。」


 雨守先生は半開きの目のまま渡瀬さんを見る。

 ホント早いですっ。

 渡瀬さん、先生に会いたい口実にしたんじゃ?……って横目で見たら肩をすくめて笑って見せた。

 やっぱり~。


 でも、すっ と渡瀬さんは真っ直ぐ雨守先生を見つめ返した。


「実際この地区の他の高校からも、何度か報告が上がっていたのよ。

 同じパターンで相手も同じっぽいし、

 県教委としても警察に相談すべきじゃないかって。」


『え? じゃ、溝端君のお母さん……。』


 警察に捕まっちゃう? それはやってたことは良くないことだけど……。


「ん? 縁ちゃん、まさか知ってる人?」


 忙しなく瞬きした渡瀬さん。


『ええ、ここの生徒のお母さんなんです。

 その子、児童養護施設から通ってて。

 先日就職が決まったって、雨守先生に話しに来た時、

 彼にその人の生霊が纏わり憑いていて……。」


「うわっ! ホントに?」


 驚く渡瀬さんに、先生は説明を加えた。


「偶然なんだけどね。

 一昨日、間先生がやられた後、その女の実体を俺達は見かけたんだ。」


「じゃあ話が早っ……あ、ダメか。

 相手が誰だかわかったのが生霊からだなんて、言えないものね。」


 素っ頓狂な声を上げたかと思ったら、ガクンと渡瀬さんはトーンを落とした。


『でも先生、それで溝端君のお母さん、捕まっちゃったりしたら……。』


 そうなったら溝端君、傷つくんじないかな? もしかしたら、せっかく決まった就職、ダメになっちゃうなんてことも?

 いきなり不安なことばかりが頭の中をぐるぐるし始めた。


「即、逮捕までいくとも思えないが……。

 だいたい被害届なんて出してるの? 他の学校の先生は。」


 雨守先生の問いに渡瀬さんをは首を振った。


「間先生もだけど、いざ確認していくと曖昧な点も多くて。

 被害届はどこからも出ていないわ。」


 じゃあ、警察にすぐには捕まらないとしても。


『お母さんを見つけ出して、

 いけないことは止めてもらわなきゃならないんじゃないんですか?』


 夕べ、問い正したところで本当のことは話しっこないだろうって先生は言ったけど……。

 それは分かってるつもりだけど……。


「縁の気持ちはわかるが、それは難しいよ。」


『だったら生霊のほうを捕まえてわからせるとか!』


「欲望の塊の生霊に話なんて通じないよ。

 第一、生霊が見聞きしたことが実体に伝わるわけじゃないからな。」


 そう答えながら先生は静かに首を振った。


「ねえ、雨守クン?

 そもそもその子自身は母親のこと、どのくらい知ってるの?」


 眉をひそめて尋ねる渡瀬さんに、これまた先生も眉を寄せて応える。


「そんな事情、聞くに聞けないよ……。

 だがその女の生霊が先日いきなり現れたってことは、

 溝端君の現状を、母親本人は知っているはずだ。」


「そっか。

 どこにいてどうしてるのか、知らなきゃ生霊だって取り憑けないものね。」


「ああ。そういうことだ。」


『じゃあ、溝端君が十八になることとか? 就職が決まったこととか?』


「年齢のことは知ってて当然だろうからな。

 恐らく、後者のほうが大きいだろう。

 それで生霊が纏わりついてきた……。」


 それってどういうことなんだろう? すると、私と先生の顔を交互に見ていた渡瀬さんは首を傾げた。


「でも、児童養護施設が子どもを保護しているのなら、

 そんな親、面会だって制限があるはずじゃないかしら?

 それなのになんでそこまでわかるの?」


「そこなんだよな、しっくりこないのは。」


「なんだかすっきりしないわね……。」


 渡瀬さんも顔を曇らせ、呟いた。

 そして渡瀬さんにしては珍しく、コーヒーご馳走様とだけ先生に言って、その日は帰っていった。


 私はもちろん、先生も知りはしなかった。肝心の溝端君が、その日から一週間ほど休んでいたなんて。


 また溝端君に会うまでは。


******************************


 その日も暗くなってからの帰り道。


 あのコンビニに入る歩道に、溝端君がしゃがんでいた。先生は軽トラをコンビニの駐車場にとめ、彼に近づいた。


 溝端君が見つめる先に、しおれた花束が。


 すぐその意味がわかった。

 気配を感じて振り向いたコンビニの建物の陰から、溝端君のお母さんが彼を見つめ、呆然と立っていたから。


 生霊ではなく、本当の幽霊に姿を変えて。



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