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俺が魔力持ちだって、わかっちゃった?
やっぱりダーラムシアの人間は違うなぁ。
俺が静かに尻尾を振ってるだけなんで安心したのか、老婆はラモントとパトリスを追い出して、母上の診察を始めた。
エマにお湯を沸かさせ、干した葉をひと掴み、煎じるように指示する。
「この大事な時期に危ない事をしなさる。何日馬車で揺られなさった?
いやいや、動いてはいかん、お子を流したくはないじゃろう?」
母上たちが落ち着いて応対を繰り返すのを聞いて少し安心したのか、姫さんは炉端でうとうとし始めた。
丸太を組んで隙間に水苔をつめ、土間を固めただけの、たった二間の家。
扉を開けて入ったはじめの部屋の奥に石を積み重ねた炉と煙突が作ってあり、暖房も料理もそこでやるらしい。ガタガタの木の机と、椅子が四客。
炉のそばには水がめが置かれ、壁に板をぶっつけただけの棚に細々したものが乗っている。
ジュエルはさっそくその棚に飛び乗り、落ち着いて、上から俺たちを見おろした。
夜は毛皮を吊るして仕切るらしい右手の部屋は、いま母上が寝ている木枠に藁を詰めただけの寝台ひとつでいっぱいになってしまう狭さ。
小さな窓はあるけど、張ってあるのは半透明の膜のようなもの。
風や虫は防ぐが、明かりはぼんやりとしか入ってこない。
これで、村で一番上等な家なんだからなあ。
軽くさました薬草茶を飲んで母上が楽になると、老婆はジョン・ラモントを呼んだ。
「ご婦人に無理をさせたものじゃ。
その兵士とかが言った通り、流産の危険が高い。
この状態で馬車の振動などもってのほかじゃ。
ひと月は安静にしておかないといかん」
「それは・・・出来ない」
ラモントが苦しそうに言った。
「一刻も早く奥方を帝国にお連れし、私は前線に復帰せねば」
奥方はローランディアの王家の血を継ぐ大事な人質。
辺境伯自身よりも、価値のある交渉のための駒だ。
「この状態で砂漠の旅など絶対に無理じゃ、と言っておくぞ。
それでも決行しようとするなら、すべての責任はそなたがとる覚悟でいなされ。
どんなに危険か、少し話しておこうかの」
母上に聞こえないように、老婆が小声で話し出す。
戦闘や負傷には慣れているはずの若い騎士は、聞いているうちにだんだん青ざめ、冷や汗をかき始め・・・終わって出ていくころには、すっかり気分が悪くなってふらふらしていた。
立ち去った戸口に向かって、ふん、と老婆は鼻を鳴らす。
「気の弱いことよ。若造めが」
あーあ。あれ絶対、トラウマになっちゃったぞ、気の毒に・・・。
落ち込んで出ていったジョン・ラモントは、翌朝、とっても嫌そうな顔で、言った。
「奥方様には、しばらくここで養生していただきましょう。
護衛に副官のゴラン・パトリスを残します。
私と共に、マリアン姫だけを、先に帝国にお連れいたします。




