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「では、あの仔犬は正式にマリアンのものに?」
「ええ、乳離れが済んだので、室内で飼う許可を与えましたの」
「ふむ。母犬のラスは上品な美しい犬だが、あれはでかくなるぞ」
「まあ、そうですの?」
「あの足の太さと食欲を見たであろ?
妙な色合いだし、狼爪を持っとる。
育ったらどんな見た目になるのか、ちょっと見当がつかん」
「狼爪?」
「後足の指が一本多いのだよ。先祖返りで、狼の血が入っている名残ともいう」
「まあ」
犬好きの夫の蘊蓄を、妻は感心して聞いている。
「なに、名残というだけだ。仔犬は化けるものだからな。
そのうちラスに似てくるかもしれん。
マリアンには小型の愛玩犬をと思っていたのに、また妙なものに執着したものだ」
妻はふっとため息をついた。
「城にふさわしくない姿になったら困りますけれど、マリアンがあれを手放すとは思えませんわ。
あの子の癇癪を止められるのは、あの仔犬だけなんですよ」
人間たちが何を決めたのか。
俺は母から離されて、石の家の中で暮らすことになった。
母のあったかい体が傍にないのは寂しいけど、姫さんの寝台で一緒に寝られるんならいいか。
と飛び乗ったら、あの動物嫌いのベスという女官が悲鳴をあげて俺を放り出した。
え?俺の寝床は下の籠?
ちぇっ。
動物嫌いの女官がベス。小間使いの雌の子がエマ。とろい小姓のトマス。
この三人が姫さんの世話係りだ。
よし、名前は覚えたぞ。
え?俺は?
「ねこしゃん」
はい、ねこさんに決定。
セントバーナードとグレートピレネーズだけは狼爪があるそうです。
うちの犬は一匹だけ退化したものが残っていました。




