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最強の獣のまったりライフ   作者: 葉月秋子


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 森を抜けて、街道へ出る。


 土を少し盛り上げて固めただけの、ほこりっぽい道。

 人の姿も見るようになった。

 しばらく行くと、数軒の家がかたまっている。

「旅人のための旅籠だよ。一日の距離ごとにこうした旅籠を作る決まりなんだ」


 サラはそう言って、今夜の宿を取る。

 初めは面白かった野宿も、何日も続くとさすがに疲れ、固い藁布団に横になってノアはほっと息をついた。


 食事に部屋を出るときに、サラはノアのマントのフードを下げる。

「その紫の眼を人に見られないようにしな」


一軒だけのぼろい宿から、小さな集落の中の宿、泊まり歩いて数日が過ぎ、少しずつ人も増えて来て、街道も広く、石畳に変わる。


「少し急ぐか。空模様がおかしい」



 次の集落が見えてきた頃、ぽつぽつ雨が降り出した。



 今日の泊りは少し大きな集落の、広い厩のある二階家だった。


 宿にたどり着き、部屋を取る頃には、篠突く雨が降り出していた。

「春の嵐じゃ。ニ、三日は収まらんの」

 宿の主人が言う傍から、雷がなり、突風が屋根を鳴らす。


 客はノアたち三人と、商人らしい五人づれ。

「客はあんたら二組だけじゃ。明日も出立は無理じゃろう。ゆっくり飯を楽しんでくれ」


 しかし薄いスープに口をつけた時、バタンと大きな音がして、戸口から風雨と共に大きな人影が入って来た。

 フードをはねのけ、まきつけたびしょぬれのマントを開く。


 すごく背が高い人だ、とノアは思った。

 首筋で束ねた褐色の髪に無精ひげ。

 広い肩幅。逞しい身体を包む年期の入った革鎧。

 そして腰には幅広い大きな剣。


「食事と四人部屋を頼む。亭主」

 低い良く響く声で言う。


「あいにく今日は満室で。納屋で良ければ泊めるがね」


 え?


 さっきお客は二組だけって言わなかった?


「ああ、納屋でかまわん。食い物はたっぷり頼むぞ、金はある」


 そういうともう一度マントを巻き付け、嵐の外へ出ていった。

 亭主があたふたと厨房へ戻り、追加の肉を焼けと下働きをせっつく。


「ふん、魔無しの傭兵どもめ」

 商人が軽蔑をにじませてつぶやく。


『魔無し』?

 ノアはどきりとした。 



 ノアが見つめているのに気が付いて、商人がいまいましげに言う。


「傭兵やら、冒険者やら、魔法がろくに使えんろくでなし共さ。

 まともな職に就けぬ根無し草どもだ」

「ローランディアへ向かうのかな。

 あの国は魔無しだらけだから、奴等でも使い道があるだろう」

「いっそ戻ってこなけりゃいいんだ」


 商人の一行の悪口が続く。

 もう、スープが喉を通らなくなった。


 魔無しって・・・なんでそんなに悪く言うの?

 冒険者って、剣も魔法も使える、お話のヒーローたちじゃなかったの?

 彼らが父上たちの国へ行って戦うの?


 サラがノアの肩に手を置いた。

「疲れてるみたいだね。夕食は部屋で食べようか」



 なんだかがっかりして部屋に戻ったノアに、サラが言った。


「こんなお節介するのはお役目から外れちゃうんだけどね。

 ノア王子。

 ダーラムシアではあんなものさ。

 魔法は持っててあたりまえ。使えなきゃろくな仕事には付けない」



 ローランディアとはまるで違うしくみ。


「魔法が使えない奴らは傭兵とか、冒険者とか、体を張る危険な仕事をするしかないのさ」

「でも、冒険者って、剣も魔法も使えるはずだよね」

 吟遊詩人が歌う、物語の主人公のような。

「は、それはごく一部の、凄腕のやつらだけだよ。

 ダーラムシアの向こうの端、魔の大樹海やダンジョンで活躍してる、超一流のやつら。

 こっちに流れて来るのは、魔力の少ない土地で、体力だけで稼ごうっていうはぐれものばっかりさ」


 だから、とサラは続ける。


「魔力の多いダーラムシアの王族にとって、魔力の使い方はとっても大事なことだ。

 自己流で変な癖がつかないように、学園に行って、しっかり基礎から学ばなきゃいけない」


 なんだか大変な事になった、とノアの不安は増すばかり。




  嵐は止まず、次の日も宿に降りこめられたまま。



 あてがわれた狭い部屋は湿気が籠ってなんか臭いし、暖炉の前を占領している商人たちに近づくのもいやで、ノアは小馬に会いに行こうと、中庭に出ていった。


 中庭を挟んで建っている母屋と厩と納屋は差し掛け屋根の通路でつながっていて、濡れずに行き来できるようになっている。

 厩のほうに歩いて行くと、どこからかしゅっ、しゅっという音が聞こえてくる。


 気になって近づくと、馬房がいくつも並んでいる大きな厩で、昨日ののっぽの大男が大きな剣に砥石をあてて手入れをしていた。慣れた手つきで指の腹を刃にあて、研ぎ具合を確かめながら。

 男の足元では厩の猫がのんびりと毛づくろいの最中。

 隣では若者が馬具に油をすり込んで磨き、後の二人は馬房の中で馬にブラシをかけている。


「休息中の冒険者」という一幅の絵になりそうな、光景。


 ぽかんと見とれていたノアに気が付き、大男は軽くうなずきかけて、また手入れに戻る。


「よう、坊主。

 お前も馬の世話に来たのか?」


 馬具の手入れをしていた若者が声をかけた。


「馬もちっけえが乗り手もちっこいな。

 昼飯代わりに頭から喰えそうだ」


 ひるんだノアに、けけっとワルぶって笑う。


「堅気の坊やをおどすんじゃない」


 へえへえわかりましたよと、軽薄そうな若者は舌を出す。


 それがノアが初めて出会った、冒険者の姿だった。


 


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