第五章 戦乱 1
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母上に抱かれて、眼が腫れるほど鳴いた姫さん。
お昼ご飯を食べるのも拒否して、ベスを困らせていたけれど、さすがに空腹には勝てなくて、おやつに蜂蜜入りのミルクに浸したパンと林檎のジャムをしっかり食べて、少し気持ちが落ち着いた。
そしたら母上に、部屋に呼ばれたんだ。
母上の部屋は天井が高くて、明るい色の壁掛けが下がり、いろんな良い匂いがする。
いつもなら化粧台に駆け寄って、いろんなものを触り始める姫さんだけど。
今日はしゅんとして入り口に立ったまま、もじもじする。
女官たちもベスも退け、部屋には母上と姫さんの二人きり。
あ、それと、俺が一匹。
「マリアン」
窓辺の椅子に座って、母上が姫さんを呼ぶ。
「マリアン、さっきノアとお別れする時、あなた、何かやったわね」
「・・・んー・・・」
「火花がぱちっと飛んだのが見えたわ」
「・・・んー・・・」
「あれは私の母方からの遺伝。
マリアン、あなた、魔法が使えるのね」
え?
『昔々、ローランディアの王様に、ダーラムシアから嫁いできたお妃さまがおりました。
ダーラムシアの人は魔法が使えます。
お妃さまも魔力を持っていましたが、王様や周りの人が怖がるので、力を使う事はありませんでした。
お妃さまの子供や孫も力を持っていましたが、ローランディアでは魔法を使いません。
使わない力は薄まって、子孫に時々その片鱗を見せますが、大したことは出来ないし、大人になれば自然に忘れていくものです。だから心配はいりませんよ』
「ローランディアの王家の血をひく子供には、こう伝えるようにと昔から言われているの。
私の母は先代の王の妹。母も小さい時はこんなことが出来たというわ。
マーガレットやフランツには現れなかったけれど、マリアン、あなたはおばあさまに似たのね」
大人になったら忘れる、か。
なるほどね。
この土地は魔素が少ないから、魔素を身体に溜めたりせずに、流しっぱなしにしておけば、そのうち魔力に変換する方法も忘れっちまうんだ。
だからローランディアの人たちは、魔法を使わないんだね。
でもねー、母上。
姫さん、俺とノアを見てて、魔力の溜め方、覚えちゃったみたいなんだけど・・・。




