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馬車はガタガタ揺れて走る。
ノアが唯一知っている、暖かな家族から離れていく。
水たまりに尻餅をついた狐顔の文官は、とっても機嫌が悪かった。
小さな体に魔封じの腕輪はたいそう重く、つけているだけでノアは疲れ果ててしまう。
小休止のたびに馬車から降りるのも一苦労だけど、母上にしっかり世話を頼まれた護衛の騎士が抱きおろし、抱き上げてくれた。
でも狐の文官は知らん顔。
出てくるのは、意地の悪い言葉ばかり。
「おい、目を離すな。ダーラムシアの人間は怪しげな術を使う。
子供だろうと油断は出来んぞ」
「奥方様がおっしゃってたじゃないですか。
この子は魔法を使えないって。
そんなに厳しくしなくったって」
「敵対するかもしれん国の王子だぞ!」
ノアははっとして聞き返す。
「ダーラムシアが参戦するの?」
文官はじろりとノアをにらんだ。
「人質が質問していい話題ではない!
もう、辺境の城で自由気ままに過ごしているのではないのだ!
しっかり口を閉じていなさい!」
「もうあの城には戻れないの?」
「もちろんだ。これからそなたの身柄は王都が預かる。
今までのように好き勝手が許されると思うなよ」
「ふうーん」
ノアはほっとしたようにちょっと笑った。
そうかー。これからは、もう僕は父上たちに、迷惑をかけずに済むんだ。
じゃ、僕、「らち」されちゃっても、いいかな。
その手には、さっきの小休止で見つけた、小さな笹船が握られていた。




