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だから、やっと王都からの使者が着いたと知らせが来た時は、てっきり援軍の先ぶれかと思ったんだ。
でも、それは一台の馬車と護衛の数人の騎士だけで、ノアを迎えに来たのだと言った。
「援軍の要請はどうなったのです」
「管轄が違うので、私にはわかりかねますな。
私の任務はダーラムシアのノア王子を王都にお連れすることです」
狐っぽい顔の文官は、国王の印璽が押された書類を振りかざして高飛車に言い、ノアと並んで立つ母上に、くすんだ青の重そうな腕輪を一組差し出した。
「ノア王子にこれをつけていただきたい」
「これは?」
「魔力を封じる魔道具です」
「そんな、ノア王子は魔法を使えないのですよ。たった八歳の子にこんな大げさなものを」
「油断は禁物ですぞ、奥方。
たとえ子供でも魔術に長けるダーラムシア人。
腹で何を考えているか分かったものではない」
女はこれだから、と言うように、ふん、と鼻を鳴らした。
むかー・・・。
何言いやがる、こいつ。
だけど、国王の命令に逆らうことは出来ない。
母上はノアの細い手首に重たい腕輪をはめ、ぎゅーっと抱きしめた。
「こんなに突然に別れが来るなんて。
元気でね、ノア。
無事を祈っているわ」
休息もとらずに王城へ戻るという文官の言葉に、母上は大急ぎでノアの気に入りの本や勉強道具、着替えなんかを集めさせた。
だけど、文官はそれを無視する。
「筆記用具や書物は与えられません。
衣類は王城の方に用意させてあります」
身一つでノアを連れ出そうとする文官に、とうとう母上がキレた。
「この囚人のような扱いは何事です!ノアはお預かりした大事な賓客ですよ!
この子は体が丈夫ではないのです、王城までの長旅の途中、熱でも出されたらどうなさるおつもりか!
着替えも人手もないまま、あなたが看病するとでもおっしゃいますか!あなたはお子様をもたれたことがおありか!あなたもお供の騎士たちも、子供の扱いをご存知か!八歳の子に出せるような食事を用意していらっしゃいますか!」
・・・母上の剣幕に、護衛の騎士たちの口添えもあって、着替えやクッション、軽食が積み込まれ、ものすごくあわただしく別れがやって来てしまった。