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狼煙が上がったから、城の中は大騒ぎ。
狼煙を見た近隣の住民の気の早い連中が、城に逃げ込んできた。
赤んぼを抱いたおかみさんやら、雌山羊を引いた女の子やら。
そういう人たちの居場所はちゃんと作ってあって、馬場に続く広場と、中庭側の広い回廊は避難した人たちでごった返した。
堀の水かさが増され、燃えやすいものが片づけられ、あちこちに水桶が置かれ。
跳ね橋の点検をするもの。落とし戸の滑車を調べるもの。
父上の訓練を受けてる兵士たちは、皆、冷静に動いてる。
厨房ではいつもの食事の他に、保存のきくパンがたくさん焼かれ、食糧庫の前には番人が座って、どさくさ紛れに盗人が入らないように見張っている。
さすがの俺でも手が出せない。
これだけ手順がわかってるってことは、過去に何度も繰り返された出来事なんだろう。
正面の見張り塔の上で、母上がじっと狼煙を見つめている。
父上は大丈夫かなぁ。
姫さんの所に戻ろうとして、通りがかった飼い葉用の水桶に。
小さな緑のものが浮かんで揺れている。
子供のおもちゃの、小さな笹船。
笹船・・・。
しまった!
姫さん!ノア!




