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ひと月たった。
母の乳もうまいが、従者の人族が皿で出してくれる食べ物も素敵だ。
べちゃべちゃで食べにくいことを除けば。
母の乳首は俺の口にあった大きさで、含めば舌がくるりと巻いて、しごくだけで乳があふれて来るんだが。
平たいものに入った食べ物は舌で舐めると端に寄っちまう。吸い込もうとすれば鼻に入る。
はやくすきっ腹に収めたいのに、慌てると足を突っ込んで皿をひっくり返したり、中に座り込んでしまう羽目になる。
もう、イライラが募るばかり。
しかし、何か物足りない。
何か。
なんだっけ。
何かとても大切なもの。
腹がくちくなったので、違ったものを試してみるか。
寝床の布。うん、噛みごこちは悪くない。
木の板。ちょっと固いが噛みでがあるな。
これは。
うん、歯ごたえと言い、固さと匂いと言い、いいじゃん、これ。
おまけに動くし、面白いぞ。
求めるものとは違った気がするけど、まあいい、これで我慢するか。
と、一心に噛んでいたら、いきなり首筋を掴まれた。
「おらの靴を噛むんじゃねぇ!」
あ、中身が入ってた?
「ラス、また仔犬を借りていくぞ」
いつもの少年、小姓のトマスと呼ばれる少年が来て、また俺を抱いて連れ出した。
あの動物嫌いの女官め、俺を便利に使いやがって。
俺に子守りを押し付けるなよ。
ほら、またギャーギャー鳴いてやがる。
「姫様、ねこさんが来ましたよ」
ぴたりと声が止む。
「ねこしゃ!」
駆け寄ってくる姫さんの顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。
あーあ。
『トマレ!』
姫さんはぴたりと止まる。
『オテ!』
両手を差し出す姫さんに、俺はとことこと近づいて、こっちの前足を乗せてやる。
うん。
しつけは小さなうちからしなくちゃな。
仔犬の舌のまきつく力ってすごいです。
人の指に吸い付くと、そのまま小さな体を持ち上げられるくらい。