17 閑話 ノア
17 閑話 ノア
ずーっと長い間、夢の中で暮らしているような気がしていた。
何もかも、もやがかかって、はっきり見えない。
いろんな人の顔が、目の前を流れていく。
いろんなことを言われるけど、意味が良くわからない。
「のろま」「どじ」「頭が悪い」
これは軽蔑の言葉らしい。
「人質」
これは同情が少し混ざる。
文字を覚えろと言われたけれど、わけのわからない記号が目の前を流れていくばかり。
そのうち、誰も何も言わなくなった。
毎日体がだるい。頭が痛い。熱くて苦しい。
そんな日々が過ぎていった。
誰かに抱かれて大きな生き物に乗った。
金色の生き物が近づいてきた。
なぜだろう、これははっきり見える。
誰かが、これは「ねこ」だと言った。
「・・・猫?・・・」
久しぶりに、言葉が出た。
「ねこさんという名の犬だよ。
下の娘のマリアンの犬だ」
金色の、ねこさんという犬が近づく。
やっぱり、これだけは、はっきりと見える
金色の「ねこさん」と暮らし始める。
この犬のそばにいると、少し頭がはっきりする。
父上と母上とマリアンの顔を覚えた。
毎日そばにいるマリアンは、いろんなものになれという。
ぼくは「けらい」だったり「わるもの」だったり「まほーつかい」だったり。
・・・まほー・・・つかい・・・。
なんだろう、ずっと昔に、何度も言われた言葉。
・・・まほー・・・。
「ねこさん」がぼくのてをなめると、ちょっとびりっとして、そのあとすーっと軽くなった。
昔、誰かに聞いた言葉を思い出す。
「・・・ねこさん・・・きみは・・・魔物?」
ぶんぶんと頭をふったから、違うらしい。
でも、きみは、まほーつかいだね。ねこさん。
父上がぼくを「かぞく」だって言ってくれた。
かぞくっていうなかまのひとりにしてくれるって。
なんだか、うれしくなった。
でも一番うれしかったのは、マリアンがぎゅってしてくれて、
「ノアはうちの子」って言ってくれた時。
そうか。
ぼくはマリアンのうちの子なんだね。




