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水遊び場から大して離れず、二人は立ち止まっていた。
二人の前にいるのは、夕べの年上の方の踊り子。
しゃがみ込んで、手を繋ぐ二人に話しかけている。
「ダーラムシアの王子だけを呼ぼうと思ったのに。
この子が先に船を手に取っちゃったわね」
二人の手から、笹船を取り戻す。
「ダーラムシアの魔法を使えない末王子ノア様」
軽く首を傾げ、笑いかける。
「ここの暮らしはどう?いじめられたりしてない?」
なんだ?敵意はなさそうだな?
おとなしいノアは返事もしないでボーっとしてる。
「んー、結構魔力がありそうなのに、変だね。
ま、監禁も虐待もされてないってことで、いいか。
じゃ、ちょっと印だけつけさせてもらうよ」
右手の指先に魔力を集め、ノアの額に触れようとする。
『おい、やめろっ!』
と、俺が飛び出す前に。
「バチッ!」と音がして、魔力がはじき返された。
「だめ!」
姫さん?
「おすわり!」
姫さんが言うと、ノアはぺたんと膝をつく。
姫さんはノアの前に出て、両手を拡げた。
「だめ!ノアはうちの子っ!」
「へ?なんでローランディア人が魔法をつかえるのさ?」
女は驚いて目を見開く。
あ、俺がいつも姫さんにやってる真似だわ。
「姫様ー!」
「マリアン様ー。ノア様ー」
女が立ち直る前に、ベスと護衛騎士の声が近づく。
女はちっと舌打ちした。
「しょうがない、またね。ノア王子」
身をひるがえし、茂みに消える。
茂みに向かって姫さんはぶう、と下唇を突き出すと、ぎゅっとノアを抱きしめた。
「ノアは、うちの子よっ!」
ノアは静かにこくん、とうなずいた。