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父上が母を自慢したのがよほど悔しかったのか。
姫さんが、新しい遊びを始めた。
『囲い込み』って。
アヒルの雛や鶏の雛を、俺に集めさせる遊び。
姫さんが命令を出すんなら、俺が追いかけてもいいらしい。
でも、これ、俺があっちこっち走り回されるだけじゃん。
逃げ回るヒヨコたちを一所に集めるのって、すごく難しい。
飛びかからないでいるのは、もっと難しい。
目まぐるしく走り回るヒヨコたちを見てると、目が回っちまう。
眼の力だけで羊たちを集め、ちょっと脅しただけで言う事を聞かせてしまう母は、ほんと、すごいや。
俺たちがあんまりヒヨコを追いかけるもんだから。
庭番のおっちゃんが、孵化直前のアヒルの卵を六個、姫さんに持ってきてくれた。
「遊ぶのはこれでやってくだされ」って。
俺と姫さんとノアは、目を丸くして卵が孵るのを見つめた。
卵から出てきた、ぺちゃんと濡れた小さな塊が、ふわふわの黄色いヒヨコになっていく。
鼻を近づけると、みんな一斉に口を開いて、ぴやぴやぴやぴや。
え?
俺に、ご飯をねだるの?
俺は六羽のアヒルの雛に囲まれ、ぼーぜん。
戸惑って後ろに下がると、みんなついてくる。
気味が悪くなって逃げると、えーっ!
みんな必死で俺を追いかけてきた。
なに、これーっ!
追いかけるのは俺のはずだよーっ!
慌てふためいて逃げる俺と、必死で追いすがる雛たち。
父上に大笑いされてしまった。
「それは『囲い込み』じゃなくて『刷り込み』というんだ」って。
姫さんは、俺の後に行列を作ってついてくる雛がかわいいって、とっても喜んでいたけれど。
部屋まで連れ込もうとしたら、床を汚すからだめだって怒られて、エマがまとめてアヒルの囲いに戻してしまった。
ふう。
しばらくは、中庭に出るたびに、六羽が駆け寄ってくるんで、まいったぜ。
うまくいかない『囲い込み』の代わりに『騎士たちの行進』遊びになって、アヒルたちのくっついた俺とノアは、また、姫さんの指示がわからず、うろうろする事になったけどね。
真っ先に近づいたねこさんが刷り込みしてしまいました。




