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最強の獣のまったりライフ   作者: 葉月秋子
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閑話 ノア 

閑話 ノア



 ダーラムシア東部。


 

 魔の森に近いこの辺りには、名高いダンジョンがいくつもあって、冒険者たちの行き来が多い。

 ダンジョン内で取れる魔石と魔物の素材は高値で取引され、冒険者ギルドの規模も大きく、出入りの商人たちで街はにぎわう。


 森と山が多く、東西に細く伸びる形の小国であるダーラムシアが豊かなのは、このダンジョンのおかげであると言っていいだろう。これほど魔素の流れが濃く、魔法使いを多く輩出する国は、他にない。


 東の三領と呼ばれる、三つの地を治める領主たちは、領地内のダンジョンの管理に全責任を負わねばならない。管理を怠ったダンジョンは、時に魔物の氾濫(スタンピート)を引き起こし、過去に何度かおこったそれは、一地方が無人の荒れ地となるほどの被害をもたらした。


 退廃的な王都とはまるで異なる、豊かさと危険が隣り合わせの、活気に満ちた土地だった。




 その三領の中で最大の領地、テクシア。古い由緒ある館の一室。


 開け放した大きな窓から爽やかな風が吹き込む室内。

 壁一面の本棚。装飾を施した見事な暖炉の上には大きな肖像画が飾られ、重厚な造りの大きな執務机の上には高価な筆記道具と共に、宝石で飾られた小函と書類挟みが乗っている。


 車いすに乗り、分厚い毛布で下半身を包んだ高齢の前領主は、執事に導かれて入って来た若者を、片手を上げて傍に招いた。


「行くか」

「はい。長い間お世話になりました」

「行く当ては?」

「まずは、テクシアの街で冒険者登録を。

 しばらくは近辺のダンジョンに潜って実力をつけます」

「では、餞別を渡そう」


 老人の膝元に、執事が書類を差し出す。

 目を通した老人は、続いて差し出された針を取り、書類に血を一滴垂らした。

 書類は魔道具だったらしく、魔力が発動してきらりと輝く。


 執事は書類を巻いて、若者に差し出した。


「ギルドに渡せ。そなたの身分証明じゃ。

 ギルドカードを作る時、そなたの血と照合され、記録される」


 老人はくっくっと笑い声を漏らす。

 

「ノルン・スタッドという、若く死んだが、手のかかる孫がいてのう。

 四男の息子であったが、名の知れた冒険者で、数々の浮名を流してな。

 何人もの女に、ひ孫を認めろと、詰めかけられたものじゃった。

 領内には息子を名乗る者がけっこうおるわ。

 どうじゃ、良い隠れ蓑であろう?」



 ちょっと怯む若者に、笑いかけた。


「いやいや、それは親子の証明ではない。

 儂との血の繋がりがあると、示すだけのものじゃ」


 笑いが、苦いものに変わる。


「母子の名乗りは上げさせてやれぬが、儂の血族に戻すことだけは、させてやれるでのう」



 二人が目を上げた先には、大きな肖像画が。

 夢見るように微笑む、闇夜の黒髪と、紫水晶の瞳を持つうら若い女性。

 見上げる若者とうり二つの、美しい肖像が飾られていた。


 

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