17
17
百頭切りなんて、詩人の作り話だとはっきりとことわって、静かにしゃべり始めたレスリーの声は低く吶々としていて、ケインは全く無言。
それでも、言葉の端々から、冒険者の厳しい生活や、魔獣の恐ろしさが伝わってくる。
ど派手な武勇伝のサガじゃなくて、お付きたちはがっかりしたようだけど、王子も姫さんも、夢中になって聞き惚れた。
やがて、王子はため息をつく。
「なるほど。
魔獣とは恐ろしいものなのだな。定期的に間引かぬと、氾濫が起こるのか。
この戦で冒険者の多くが傭兵として軍に参加している。
東のダンジョンの多くが、手薄になっているようだ」
「王都のギルドもそれを懸念して、私たちを呼びつけたのだと思います」
「残念だ。ギルドの呼び出しさえなければ、私がそなたたちを雇えたものを」
「私たちは、人間相手の戦いはしません」
「そうだった。人を害する魔獣のみを狩る、ハンター。
それが、そなたたちだ。うん。」
しかし、あんまり王子が夢中になるもんだから、お付きたちが嫌な雰囲気になって来た。
「そして、マリアンと言うのだな。そなたも弓使いとしてパーティーに入っているのか。
その若さで凄いな、うらやましいぞ」
「いえ、私は」と、否定しかけた姫さんを遮って。
「この子はまだ未成年、冒険者登録は出来ないのです」
と、レスリーが当たらず触らずの返事をする。
「しかし、みごと野盗の一人を仕留めたというではないか」
軍人の一人が言った。
「私は怪我を負わせただけ、倒したのはベンさんとこの子です」
「なんと、この犬が!」「凄いな」
「ほう。芸をするだけの道化ではなかったのか」
あ、やな言い方。
俺はその神経質そうな軍人に向かって、くわぁ、とあくびを一つしてやった。