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ところが、翌日。
出発の準備をしていると、騎士に率いられた数人の男たちがやって来た。
呼ばれたシシィが手を拭きながら、あわてて出迎える。
「クリアウォーター未亡人であるか?」
馬上から、文官らしい男が居丈高に言うと、手に持った巻いた羊皮紙を拡げて、読み上げた。
「ダーラムシア王国軍総司令官ステットラン元帥の名において、クリアウォーター農場は、軍に接収されることとなった。ただちに家屋を引き渡し・・・ん?」
と、やっと焼け跡に気付いて、驚く。
「何だ!家がないではないか!これはけしからん!」
ほとんど徹夜で働いて疲れはて、煤だらけの顔をしたシシィは、その言葉にキレて、両手を腰にあてた。
「昨日来てくれりゃ、ちゃんと母屋があったんだけどね。
御覧の通り、丸焼けだよ!」
軍がちゃんと取り締まってくれてたら、野盗に襲われることもなかった、おびえて牛の乳が止まっちまった、畑の世話する人手もない、とキレたシシィは、延々と愚痴を怒鳴り始めた。
しびれを切らした上官らしい騎士が、前に出て来る。
「本隊がすでにこちらに向かっている。数時間で到着するだろう。
牧場を兵たちに使わせ、母屋がないなら納屋に司令部を設置する。
司令部用の三十人分の食事は出せるか?」
台所は、あの始末だよ、と、シシィは焼け跡を示す。
騎士は兵站部隊と工兵部隊に伝令を出し、納屋の片付けと食卓の設置をシシィと農場の男たちに頼み、てきぱきと命令を下し始めた。
「シシィ、少し休め。ほとんど寝とらんだろう」
ベンがシシィをいたわって、言う。
「何もかも燃えちまったのに、食事を出せだって!
忌々しい兵隊どもが!」
もう、泣きそうだ。無理ないけど。
「しーっ、聞こえる所で不敬な事は言うな。
儂も手伝うから。
鍋釜は商品にあるから、使ってくれ」
「代金は後で軍に支払ってもらおう」
ベンの肩を叩いて、レスリーが付け加えた。