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木立に引き入れた馬車が見つからないよう、俺はこっそり「隠蔽」をかける。
馬車と木立が紛らわしくなり、見つけにくくなるように。
ベンさんは、もと冒険者らしく、ポリーとネリーを落ち着かせ。
姫さんは手慣れた様子で弓に弦を張り、狩人の「待ち」の体勢で、耳を澄ます。
自分の馬をおさえたカイトは・・・おい、なんだか落ち着きがないなぁ。
冒険者志願なんだろ、レスリーたちに馬車を守れと言われたんだから、ちゃんと道を見張って居ろよ。
戦いの物音も聞こえず、辺りは静まり返っている。
半刻もせずに、カイトはしびれを切らしやがった。
「なぁ、大丈夫かな、二人だけで。
相手は十人もいるんだろ」
「レスリーなら大丈夫。ケインもついて居る。大人しくまっとれ」
「だって・・・なぁ、心配じゃないか?
ちょっと様子を見に行って・・・」
「お前さんは、馬車を守れと言われたろうが」
「ちぇっ、こんなおんぼろ馬車のおかげで、レスリーさんたちの戦いが見られない・・・」
おいおい。
「なぁ、すぐに戻るから、ちょっとだけさ」
動くんじゃない、「隠蔽」が破れちまうぞ。
「ここにいるんじゃ」
「リーダーの命令もきけないの?」
だけど十歳の姫さんにまで言われたおかげで、カイトのやつ、むきになっちまった。
「大丈夫、ちょっとだけさ」
言うなり馬に乗って、道へ出ていく。
俺様がせっかくかけた「隠蔽」を破りやがって。
「だめだな、ありゃ」
あいつは冒険者にゃ向かん、と、ベンさんがため息をついた。