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街道に出るまでは、そんな穏やかな旅だった。
しかし街道へ乗り入れて半日。
今夜の宿に、と予定していた旅籠には、人影がなかった。
街道の整備と旅籠の管理は、領主の義務だ。
無人にしてはいけないはず。
だけど争った跡もなく、閂はかかっていたけれど、戸棚も、家畜小屋も空っぽ。
それほど荒れてはいないから、家人が出ていったのはごく最近の事だろう。
「こりゃあ、いかん。案じていた通り、戦がこっちに広がって来とるかの」
街道から少し離れて、隠れるように一夜を過ごし、急いでレッドレイクへ向かう。
レスリーとケインは、辺りを警戒して、一人が先行し、一人が馬車に付き添うように動くようになった。
「嬢ちゃんを紹介しようと思っとった農場は、あの丘のむこうじゃ」
前方を指さしたベンさんが、そのまま固まった。
丘の向こうの空に漂う、黒い煙が目に入ったから。
先行していたケインが、馬を飛ばして戻って来た。