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街道へ出るまでの三日間は、物騒な話が嘘みたいな静けさだった。
うららかな初春、上天気が続いて空は晴れ渡り、馬車はごとごとゆっくり進む。
ベンさんは陽気に鼻歌を歌い、ポリーとネリーの手綱の捌き方を姫さんに教えてくれる。
道端の藪からいきなり飛び出した山鳥を、姫さんが見事に矢で射抜き。
道から離れて落ちちゃったので、俺が藪をかき分けて回収してきて。
野営地のそばでは姫さんがガガイモと武者大蒜をみつけ、美味い夕食を作ってみんなで分けた。
夜は毛布にくるまって、馬車の下に潜り込んで寝る。
明け方はちょっと冷えるけど、俺が傍にいればぬくぬくさ。
冒険者三人は、護衛と言ってもベンさんが雇ったわけじゃなく、古い知り合いが、行先が同じになっただけだから、主従関係もなく、和気あいあい。
「え、ベンさんも昔は冒険者だったの?」
「はは、もう二十年も前になるかな。
これでも仲間とパーティーを組んで、ダンジョンに潜ったりしていたんだよ」
膝を怪我して引退し、こうして鋳掛屋を始めたのだと。
おお、ベンさんもレスリーたちと同じ、ローランディアではおとぎ話でしかなかった、本物の冒険者だったのか。