第九章 マリアン 旅
1
鋳掛屋のベンさんが、旅の初めにまずしたことは。
馬車からジャラジャラいう金物を外した事だった。
あれは村に入る時の宣伝用だって。
そりゃ、あんなにガラガラ言わせながら旅をするんじゃ、馬たちもたまらんわ。
カウンター代わりの横板を戻して幌をかけ、ポリーとネリーという気の良さそうな二頭の馬を繋ぐ頃には、同行の三人も馬を引いて出てきた。
「おはようございます。私、マリアンというの。
レッドレイクの街まで、よろしく」
「私はレスリー。こっちはケインだ。あっちの若いのはカイトというお調子者」
「そりゃねぇでしょう!レスリーさん」
「よく使い込んだ弓矢だな。腕はあるのか?」
「家で食べる肉は、私が狩ってました」
「人に向けたことは?」
「えっ?いいえ」
「よし、じゃ、万一対人戦になったら、ベンと一緒に馬車に入って居ろ。
素人が下手に手を出すんじゃない。わかったな」
いかにも用心棒というレスリーの口調に、姫さんはちょっと緊張し、答える。
「は、はい・・・」
おいおい、なんか物騒な話だなぁ。
村の人たちに別れを告げて(ミックは俺も一緒に街へ行くんだってごねまくって、親父さんに拳固をもらってたけど)姫さんは御者台のベンの隣に座った。
村から街道へ出るまで三日、レッドレイクまでは街道を二日。
こんな田舎だから、街道へ出るまでは野宿が続く。
俺は・・・え、馬の隣を歩けって?
ま、くたびれたらこっそり荷台に飛び乗るからいいけどさ。