13
13
ふうーん、そういう奴か。
酔払いの歌うだみ声がうるさくなって来たんで、俺は毛玉を解いて床に散らした。
まったく、歯の浮くようなモリモリのノリノリのサガだった。
あの武勇伝の半分・・・いや、十分の一・・・いや、一滴でも真実が含まれているならば、あの女は結構な使い手のはずだ。
姫さんの護衛にしてやっても、まあ、いいだろう。
俺はあくびを一つして、姫さんの寝床の横に丸くなった。
しかし、魔獣かぁ。旨そうだなぁ。
百頭分の魔素を喰ったら、俺もだいぶ強くなれそうだけどな。
話の舞台の魔の森は、東の果て。
しばらくは行く機会もないだろう。
爺さんが作ってくれた道具、婆さんが作ってくれた服、狩人たちがそろえてくれた武器。
姫さんはずいぶん遅くまで、明かりをともして仕分けをしてた。
そして、次の朝。
大きな荷物と弓矢を背負い、婆さんの種麹の甕を抱えた姫さんは、小屋の扉を閉じ、閂をかける。
仕来り通り、口と胸に触れた手を扉にあてて、五年以上も暮らした小屋に別れを告げた。
「長い事私を守ってくれて、ありがとう」
残していくものは、村のみんなに分けてもらう。
また故郷から遠ざかるけど、必ず戻って来て父上や母上を探そうね。
俺様といっしょなら、どこへ行っても大丈夫さぁ。
「行こう、ねこさん」
俺の頭に手を置くと、姫さんは振り返ることなく、村に向かって丘を降りていった。