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「あれは私らの名を使った創作なんだ、私らはそんなものじゃないぞ!」
握手をしよう、酒をおごろう、と押しかける若い衆に、レスリーは真っ赤になって弁解する。
「駆け出しのへっぽこ吟遊詩人が名を売ろうとして、私らの名を勝手に使って、とんでもない武勇伝をでっち上げたんだ!」
辟易して早々に酒場の二階にある宿の一室に引き上げたレスリーは、下から聞こえるどら声の歌に頭をかかえて獰猛にうなった。
「あの野郎・・・あの時ぶっ殺しておけばよかった・・・」
一目ぼれしたとうるさく付きまとうから、鼻っ柱を一発ぶんなぐってやったら、ますます惚れた、創作意欲が上がったとか言いやがって。ある事ない事詰め込んで、でたらめも良い処の武勇伝を作りやがった。
大柄な女剣士は少ないから、それでなくても悪目立ちするのに、あれ以来どこへ行っても変な噂が付きまとう。
面倒になって軽い『威圧』を放つと、「きゃー」とか言って倒れる男女が出る始末。
「魔獣百頭切りだと?勘弁してくれ・・・」
魔獣が何かも知らないくせに。
ダーラムシアの王都から西は、ダンジョンもなく、魔獣も出ない。
魔素の流れ方が異なるからだと学者は言う。
こっちなら静かだろうとほとぼりを冷ますために来ていたのに。
歌が追いついて来やがった。
「もう、改名か性転換しかないんじゃね?」
ケケッと笑う三人目の頭を、ケインがべしっとひっぱたいた。