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「ガタカン帝国が動きそうなんだ」
集まったおかみさんたちとの商売を終え、婆さんの酒がないのを嘆きながら酒場で数杯ひっかけたベンは、集まった男衆に、声をひそめて言った。
ここ数年戦は膠着状態で、小競り合い程度のものに落ち着き、皆一安心していたんだけれど、帝国が砂漠を越えて大量の兵士を送り込んで来たらしい。
「奴らは砂漠のこっち側に自分らの領土を作りたいんだ」
だから、ローランディア辺境伯の土地を攻め取った。
そこを足掛かりにローランディアと戦っていたけれど、領地は小さいし、領民も四散して自給出来ない。
そこで今まで味方をしていたダーラムシアに向かって、じりじりと領土を拡げようとした。
腹を立てたダーラムシアとの間で、いざこざが起こり、戦いが始まっちまった。
いつ、前線がこちらに向けて移動して来るかわからん、と。
「ここらもだいぶきな臭くなってきてなぁ。
戦泥棒や野党の類が増えて、街道はえらく物騒になっちまった」
王都のそばでも、もう護衛無しで旅は出来ない、と。
「村の若いので自警団は作っとるが、兵隊崩れなんかが徒党を組んで押し寄せたら・・・」
「いや、それよりも、ここが戦場になってしまったら・・・」
村の衆は心配そうにつぶやく。
帝国軍は小さな村なんか踏み潰して、略奪の限りを尽くして進んでいくだろう。
迎え撃つダーラムシアの軍隊も、領民を守るはずの領主様も、大きな街ならいざ知らず、こんなちっぽけな村なんか助けちゃくれない。
ああ、だからベンさんは急いで国境から離れたいってわけだ。
姫さん一人くらいなら、連れていく事も出来るけど。
村の人たちは、動くのは難しいからなぁ。
「万一に備えて、隠し場に食料は備蓄してあるんだろう?」
奥の席でエールを傾けていた三人の中から、背の高い女性が言った。
「今のうちに、森や山の中に女子供の避難場所も確保しておいて。
家畜は声を立てて見つかりやすいから、何かあったら連れて行かず、森に放してしまうほうがいい」