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季節ごとに俺の毛は抜け替わるけど、冬毛の量は結構多い。
姫さんがブラッシングしてくれて、金色の抜け毛がたくさん溜まると、婆さんは羊毛を少し足したり、重ねて色違いにしたりして、熱い灰汁をかけ、圧縮してフェルトを作ってた。
フェルトのバッグやポンポンつきの帽子、針でつついて模様を付けたり、小さな人形を作ったりして、小銭かせぎに店で売ってもらうんだ。子供たちには結構喜ばれてた。
うーん、婆さん、懐かしいなぁ。寂しいよぉ。
と、それで俺も、自作の毛玉を作ってみたわけだ。
ちょっと魔力を吹き込んで転がしておくと、近くの音を拾ってくれる。
自分の毛だから、魔力の通りもいい。
ま、ちょっとした、分身の術って。
姫さんが喜ぶんでちっちゃな犬の形にもしてたけど、今回は目立たないよう毛玉のまんま。
さも、風で吹き飛ばされました、って感じで酒場まで飛ばして、床のすみっこに転がしておいた。
用事が済んで魔力を解けば毛玉はほぐれて、元の抜け毛に戻ってしまうだけ。
後で下働きの小娘が、掃除を怠けたって言われるかもしれないけど・・・うん、ごめんな。
という事で、姫さんが荷物をまとめたり、いきなり出ていくお詫びと、いろんなもののありかを手紙に書いて(狩人の親子は字が読めないけど、酒場の親父にでも読んでもらえるだろう。荒っぽいけど気のいい奴等だったから、後の家事がどうなっちまうか心配だ)くるくる動いている間、俺は毛玉で、村の酒場に集まった、ベン親父たちの話を聞いていた。
うん。
やっぱり、あんまりいい話じゃなかったよ。