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「そんな大事なこと、こんな時決めるんじゃないよ」
「街で働く伝手もないだろ」
「おばちゃんたちと一緒に暮らそう」
みんな心配してくれたけど、こうと決めたら姫さんは頑固だ。
静かに笑って首を振る。
通夜の席で、天涯孤独となってしまった十歳の女の子がはかなげに微笑むと・・・
「うっ」とか「くっ」とか言う声があちこちで漏れたけど。
とにかくよく考えて決めようね、とその場は収まって。
狩人たちが旅から戻るのを待つことになった。
だけど、家主の狩人たちが帰ってくる前に。
数日後、ガランガランジャラジャラと、派手な音を立てて村に入って来たのは、おなじみの鋳掛屋のベンの馬車だった。
だいぶ老けて髪に白いものの混じって来た鋳掛屋の親父は、今回は騎馬の三人連れと一緒。
爺さんと婆さんが亡くなったと聞いて、がっかりした顔で。
おまけに婆さんの秘蔵の酒が全部通夜で消えたと聞いて、がっくりと肩を落として言った。
「そりゃあ、御愁傷さまで。
しかしあの秘伝の酒を、もう飲むことが出来ないとは・・・」
なんでも戦の不安のある中、ここ数年、あんまりもうけにならないこの村まで回って来てくれてたのは、婆さんの醸す酒が目当てだったらしい。
「おばあちゃんの酒の種麹なら、残してあるよ」
と、姫さんが言った。
「お酒作りの上手い人に渡して頼んだら、また作ってくれるんじゃないかなぁ」
きらり、と眼を光らせたベンさんに、姫さんはにっこり笑って言った。
「ベンおじさん、麹を分けてあげるから、あたしをレッドレイクまで連れて行ってくれませんか?」