第八章 マリアン
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姫さんが爺さん婆さんとダーラムシアの端っこの村で暮らすようになって、五年。
外の噂はほとんど入ってこないけど、戦はまだまだ続いているらしい。
なんでも砂漠を越えたガタカン帝国が、ローランディア辺境伯領を乗っ取り、自分の国にしようとしたんだって。ダーラムシアははじめは帝国に味方していたけど、帝国はどんどん兵士を送り込んで、辺境伯領だけじゃなく、ダーラムシアの領土まで侵し始めた。
なので、今度は帝国とダーラムシアが戦争になってしまった。
ローランディアと組んで帝国に歯向かえばいいものを、そうはいかないらしくって、戦は三つ巴のぐちゃぐちゃの泥沼。
税は上がるは、兵役の年齢は下がるは、ろくでもない事ばかり。
おまけに戦線がこっちへ移動してきてるっていう。なんかやばいなぁ。
酒場の息子のミックは十二歳になった。
十二歳になったら、もう大人扱いされる。
街へ出れば、冒険者登録が出来たり、兵役に就くことだって出来る。
でもこんな辺鄙な田舎じゃ、このまま親父さんの酒場で働くしかないなあ。
そんでもって、姫さん、マリアンはもう十歳。
バリッ!ドオオーン!
雷魔法も操れる、もう、いっぱしの狩人だ。
足腰のめっきり弱った爺さん婆さんに代わって、家事や畑仕事も覚え。
魔法が上手いって周りに知れるといろいろまずいから、普段は罠や弓矢で、小動物を狩ってる。
大家の狩人たちが面白がって教えたから、捕って捌いた獲物を酒場に卸せるほどの良い腕だ。
ソロじゃ危ないって?もちろん、俺様も一緒さぁ。
犬の身体はあまり大きくすると目立つから、並みのサイズで止めてるけど、強化と敏速さはばっちり。
魔素もしっかりため込んで、使える魔法もそうとう増えた。
そのマリアンが十歳になった冬。
爺さんと婆さんが、相次いで亡くなった。
というか、爺さんが亡くなった次の日、婆さんも寝床から起きてこなかったんだ。
狩人たちは長い狩猟の旅に出て留守だったけれど、姫さんが婆さんの秘蔵の酒をみんな出してきて、村人たちにふるまったので、通夜はたいそうにぎやかだった。