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しゃべろうとすれば、言葉が止まる。
書こうとすれば、手が動かぬ。
ノアの魔力循環の方法は、異端として闇に葬られるはず。
だが、学院を去るジャニーンの眼には、小さな希望の灯がともっていた。
ダリル・スタントン、自主退学。
謹慎期間中に学院から出ていったが、実家には戻らず、行方知れず。
新学院長に任命されたマリア・トリニテは明らかにステットラン派であり、南寮長エリーが謹慎処分となって、北寮はますます力をのばしていく。
「これがご注文の品ですよ。エリーさん」
「ああ、ありがとう。うん、よく手になじむ」
渡されたのは、二つ一緒に片手で持てるほどの、大理石の玉がいくつか。
「綺麗な真球になっているね。
さすがは上級土魔法の使い手の作品だ」
「何に使うんです?そんなもの」
「指先の鍛錬だよ。眠気防止にもなるそうだ」
「へえ」
二つの玉を、手の中で転がす。
同時に体内の砂利を転がす。
魔力の砂利を、細かく砕く。
砂利を転がし、摺り合わせる。
砕き、流して、滑らかに。
よし。
魔力の砂利を転がす。大理石の玉を転がす。
意識の転換が出来るよう、同じやり方、同じ動作で。
これなら審問官に思考を探られても、転嫁できるはず。
他人に教える事も、楽だ。
ノアのやり方は、正しい。
がんばれ、ジャニーン。
いつかこの方法で、魔力循環に革命を起こしてやる。
眠気防止の石球は、静かに南寮の学生たちに広まっていった。
のちにエリー・ラムシスはその潤沢な魔力と緻密な魔力操作で、大魔導師として名を馳せることになる。
そしてノアール王子は、魔力枯渇による事故死扱いとして、その名は学院名簿からも、王族年鑑からも、消去されたのだった。