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良い季節なので、時には奥庭でお茶をする。
姫さんの母上自慢の庭らしい。緑と花がいっぱいだ。
だけど、俺、ここは苦手だ。
ちょっと興味を持った地面を掘ると怒られるし、気に入った匂いの葉っぱをかじってみると怒られるし、おいしそうなリンゴがなってるからもぎろうと飛びついたら・・・がっしゃん!
土から生えてないで壺から生えてたんだ。
そしてなにより・・・。
『へっぷし!』
母上の気に入りの、薔薇の木が多すぎ。
薔薇香油を使うフランツのおかげで、俺、この匂い、苦手。
だってあいつときたら・・・
姫さんと遊んでいるところへ、やってきて言うんだ。
「その犬よこせよ」
「や!」
「もともと僕がもらうはずだったんだ!
お前なんかが連れてたって似合わない!
他の犬をやるからそれをよこせ!」
「やーーーーーっ!」
姫さん、がんばれ!
『ぐう・・・』でも首は絞めないでっ!
俺の毛がきれいな金色になったもんで、奴がやたらにちょっかいをかけて来る。
やっぱり俺が欲しかったって。
他の犬をもらう前に父さんが戦に行っちまったから、奴には犬がいないんだ。
父さん、ブルートの子は渡すなと、母さんにはっきり言い残して行った。
うん。わかってるじゃん、父さん。
こいつに生き物渡しちゃだめだよ。
ジュエルを捕まえようとして、ひっかかれたの知ってるぞっ!
「よこせっ!」
「ぴぎゃーーーーっ!」
おーっと。
姫さんに気を取られてたら首根っこ掴んで持ち上げられ・・・へ・・・
『ぶぇっぷっし!』
「わっ!」
大きくなったから鼻水の威力も倍増だ。ざまーみろ!
するりと抜け出し、手の届かない処からうなってやった。
俺の姫さんを鳴かしやがって!
大声で鳴きだした姫さんと、鼻水を浴びて怒り狂うフランツにお茶の時間を邪魔されて、母上が叱責の声を上げる。
俺はとことこと母上の前に歩いて行き、お座りすると、軽く首を傾げ、上目遣いに見上げて、片耳をちょっと上げる。
はい、「世界で一番かわいくおとなしい犬」のポーズ。
お付きの女官たちがとろけるような眼をして笑う。
俺は何にもしてませーん。
だから、ねぇ、クッキーちょうだい?