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子供を怖がらせるな、この研究馬鹿たちめ!
ステルツ教授はもどかしさで爆発寸前。
こんな一年生を異端審問などにひきずりだしおって。
「深森の賢者」、魔道使いの最高峰たちだろうが、子供の扱いは最低だ。
しかし、学院長ならともかく、一介の教授には口を挟むだけの権力もなかった。
委縮して返答もろくに出来ぬノアに苛立ち、一人が降りて来てノアに近づく。
「どれだけ異質な魔力なのだ。見せてもらおうか」
のしかかるように近づいた黒い背の高い男、そのローブから大きな手が伸びて・・・
魔力が流される、と感じた途端、ノアの中でかちり、と何かが動いた。
ノアの緊密で滑らかな魔力はきつく、固くかたまり、流れ込もうとする砂利を跳ね返す。
手加減した軽い接触だったが、ぱしり、と魔力をはじき返された相手は驚いて手を引いた。
「・・・いやだ・・・」
両手で肩を抱き、顔を伏せたノアは、食いしばった歯の間から言った。
「いやだ・・・触るな・・・もう、いやだ・・・」
魔力がないからって放り出されて、また戻されて、また拒否される。
あれをしろ、これになれ、と意志の無いおもちゃみたいに、僕を勝手に振り回して。
ただ一つ大切だったローランディアの家族を、あんたたちが壊した。
父上、母上、マリアン、ねこさん、みんなもういない。
また僕は、一人ぼっちだ。
「あんたたちなんか大嫌いだ!ダーラムシアなんて大嫌いだ!」
激しい叫びと共に、固く巻き込まれた魔力がばっとはじけた。
ノアを中心に渦巻いた青い炎は、目の前の黒いローブに襲い掛かる。
絶叫と共に、炎に包まれる男。
大きく開いたかぎづめのような燃える右手が、眼を見開いて驚愕するノアの前に突き出され・・・
ノアの意識は、そこで途切れた。