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この学園内でポルターク派の勢力を伸ばすために、ノアをむりやり入学させたのに。
「『どんなに金を積んでもよい、あの王子に学院を卒業させろ』とポルターク伯は命じたんだよ」と、苦々しげに秘書官筆頭であるノーランの父は言ったのだった。
伯爵自身も学院を卒業したはずだろうに。
千年の伝統を誇る魔道学院は、賄賂などきかない。
魔力の水準に満たぬものが卒業を許される事は決して無い。
そんな事を考えるくらいなら、入学前のノア王子にしっかり家庭教師をつけておくべきだったのに。
無能な貴族のやる事は! まったく!
「しかし、何で異端審問官なんかが出張ってきたんだ?」
「ステットラン派はポルターク伯を失脚させたい。ノアの足をひっぱろうと虎視眈々と狙っているんだ」
賄賂は効かない学院でも、派閥争いは熾烈だ。
「だってこいつが何をやったよ。
訓練場以外で魔法を使ってもいない、他人に向けて魔法を放ってもいない。
やったのはただ・・・」
ノーランがガタン!とダリルのむこうずねを蹴った。
いてっ!と前かがみになるダリルを、テーブルに押さえつける。
そう、杖なし無詠唱で炎を出した、あれが見咎められたんだろう。
「ノアを狙っているって言ったろ?
滅多なことをしゃべるんじゃない。
僕たちを三人一緒に閉じ込めたのも、怪しいだろう。
どこかに盗聴用の魔道具があって、僕らの話を聞いているんだと思う」
ダリルはげっ、と口をおさえた。
俺、いままで変な事を言わなかったか?
ノアは黙ったまま、その顔色がどんどん悪くなる。
「大丈夫です、ノア王子。ラダスターン学院長は公正で清廉な人物と評判の人物です。きっと、あなたの味方になってくれます」
ノアの異質な魔力をしっかり見極めて、指導してくれるつもりだったろうに。
「査問会まで三日もある。
待たせて、不安にさせて、気弱になった所を尋問する、なんて考える奴らもいます。
悩まないで自然体でいましょう、ノア王子。
頼めば教科書くらい差し入れてくれるかもしれない」
それはいらんわ、とダリルは顔をしかめる。
盗聴されているかもしれない、と思えば、会話も弾まない。
時間はのろのろと過ぎていく。