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もう、勘弁してくれ、とノーランは落ち込んだ。
ポルターク伯の秘書官である父から、不遇な末王子の学友になるという任務を与えられて、張り切っていたのに。
このボケでアホな坊やをポルタークの旗頭に担ぐなんて、無理もいいとこだろ・・・
ノアにしてみれば、魔力を封じられて霧の中で過ごしたような幼少期。
辺境伯に拾われ、ねこさんに助けられ、ロードリアスで教育を受け始めてからわずか二年足らず。
ロードリアスの歴史は学んでも、母国ダーラムシアについては魔法を使う隣国、くらいの知識しかなかったのだ。
深くため息をついて、ノーランは話し始める。
「千年以上昔、魔道王国ダーラムが、この大陸全土を支配していたんです」
「ダーラムシア、ロードリアスから北のガタカン帝国まで、魔道王国ダーラムの支配の下、世界は魔法に満ちていました。
しかし千年前、『大破壊』がおこりました。
原因は謎です。
王国の北と西にあった多くのダンジョンが溢れ、『湧き』と『大暴走〈スタンピート〉』を起こしたのち、突然消滅。
そして王国の中央部で巨大な爆発が起こり、不毛の地、中央砂漠が出来たのです。
その後、世界の魔力の流れが変わり、北と西の魔力が枯渇していきました。
かろうじて『大破壊』を生き延びた北と西の人々は、魔法を使えなくなっていったんです。
大陸南東部のこの地方は、魔力の枯渇がおきず、ダーラム王国の主だった方々はこちらに移り住み、新たな魔道の国、ダーラムシアを建設しました。
王国の魔法を受け継いだ、数々の魔法使いたちと共に。
それから千年に渡って、ダーラムシアは魔法使いを輩出する唯一の国として栄えてきました。その最高峰が「深森の賢者」と呼ばれる長老たち。
魔力の強い王族に繋がる方々も多く、彼らの権力は国王をもしのぎます。
この学園で学ぶ魔法には、その千年の伝統があるんですよ。
魔法は偉大な力ですが、危険なものでもある。間違えて使えば、歪んだり、暴発したりする。だから教義は厳しく定められています。杖の使い方も、詠唱の方法も。
つまり、えーと・・・」
ノアの顔を見て、ノーランは再びため息をつく。
えーい、こんな常識、幼児でも知ってるだろうに。
「魔法は、教えられたとおりのやり方で使わなきゃいけないんです。
間違った使い方をしたり、禁じられた術を使ったりした者は、異端者として罰せられます」
「昔は厳しかったんだ。異端裁判で公開処刑されたり、野良の魔女や魔法使いたちが集団火刑にされたり。
子供の頃、泣くと『異端審問官が来るぞー』って、脅されてたっけな」
「余計な口を出すな、ダリル。
今でも異端者は放校だし、疑いをかけられただけでも大きな汚点なんだ!」
何より、政府の要職につけないし、宮廷から締め出されてしまう。