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その夕刻。
ラダスターンは自室に音声遮断の結界を張り、憤慨するカール・フォン・ステルツ教授と向き合った。
「きみの助手ロベリアが情報を漏らしたのか」
「私のミスだ。長く一緒にいたのに、あそこまで頭が固かったのか。
いや、ステットランの息がかかっていたのだな」
異端審問とは、また古めかしい厄介なものを持ちだしたものだ。
ノアが頭角を現す前に、つぶしてしまえというわけか。
魔力循環の画期的な発見に舞い上がって、つい敵対派への注意を怠った。
冷静な学院長と対照的に、教授は怒りに燃えている。
「異端だと!あいつらは何を言っている!
ノアール王子の魔力操作は、緻密で繊細なだけだ!
あれほど緻密な魔力操作ができるならば、詠唱も集中のための杖も不要なだけだ!」
「それを深森の方々に納得させられるならな。
魔道戦争以来の千年分の伝統でがちがちに凝り固まっている方々だ」
「しかし異端などという大昔の法を持ち出すとは!
最後に異端裁判が行われたのは、百八十年も前の事だぞ!」
「あれはダン・ハモンド裁判だったな。
そして彼は有罪で火刑に処されたのだ。
杖無し、無詠唱で異端とされる魔法を使った罪で」
「それは建前、問題になったのは彼の魔法理論だ!
人の魔法などは魔獣の使うもの比べたら児戯に等しいと。
人は魔獣の魔法を稚拙に模倣しているだけだと言った!
それが詠唱こそは人間の英知の結晶と謳う賢者たちのプライドに触れたのだ!」
「ノアもそこを突かれるぞ」
「無詠唱など穢れた獣の技だと言うのだろう。愚か者ども!」
しかし・・・
ふと、長年叩き込まれた魔法の原理に対する疑問が、ラダスターンの頭に浮かぶ。
独力であれだけ緻密な魔法操作を行えるようになった、ノア。
学院で学んでいたら、あんな魔力循環は覚えようがない。
ダン・ハモンドが有罪になったのは、彼の説が正しかったからではないのか?