5
5
男の子は喜んで、お菓子をあげるよ、と、姫さんと子供たちをよんだ。
狩なんかより、俺の方がずっと面白いって。
どんなもんだいっ!
兵士たちが五人を抱き上げて、馬に乗せる。
一行について行くと、森を抜けた先に大きなキャンプが作ってあった。
いくつもテントが張られ、軍人っぽいやつらが行ったり来たりしている。
目を丸くしている子供たちはテントの一つに招かれ、男の子が命じると、大きな金属の皿に盛った旨そうなクッキーが出てきた。白い砂糖衣がかかった、上等なやつ。
他の子たちはびくびくしてたけど、姫さんは綺麗にお礼を言って、一個つまんでさくっとかじり、にっこり笑う。
「おいしいねぇ」
白いお砂糖なんて、久しぶりだ。
つられて手を出した子供たちも、甘さにびっくり。
「ねこさん」って名前が変だって面白がった男の子の言うなりに、俺はお手をしたり、お座りをしたり。
姫さんも一緒になって命令するから、立ってくるくる回ったり、切られて死んだふりまでさせられて。
男の子は喜んでけらけら笑う。
「そんなにお気に召したなら、この犬、連れ帰りましょう」
と、ろくでもないティラメイが言い出した。
なんだとぉ?
「仔犬の方がかわいいよぉ?」
と、お菓子でご機嫌な姫さんがにっこりしながら言う。
「仔犬?」
「うん。ちっちゃくて、もふもふで、だっこするとぺろぺろ舐めて大好きって言ってくれるの」
「これ、殿下になんという口のききかたを・・・」
「抱けるのか・・・それは・・・いいな」
想像したらしく、男の子は手をわきわき。
そろそろ引き上げる時間だと言われるまで、俺たちはその子と遊び、お土産のクッキーをもらって、兵士たちの馬で村の近くまで送り返してもらったんだ。
やれやれ。無事に済んでよかった。
「戦場の視察はいかがでしたか?リール王子」
その夜、ティラメイ卿たちとの退屈な晩餐から戻った男の子は、侍従の差し出す夜着に着替えながらため息をついた。
「視察も何もあるもんか。戦の場から遠く離れて、馬鹿な貴族たちのおべっかに付き合わされただけだ。
毎日、晩餐会だの、舞踏会だの、狩だのと。
学院を休んでまで、兵士たちの士気を高めるためにやって来てやっているっていうのに、その兵士たちに会わせもしないんだぞ!
戦いの指揮もとらずに、遊びまわっているのか、あいつら田舎貴族たちは!」
「こんな辺境の片田舎です、王子に気に入られて王宮につてを作ろうと、皆必死なのですよ」
九歳の男の子向けの歓待も出来ない馬鹿者揃いだな、と侍従は苦笑い。
ああ、でもあの犬は素敵だったな。
リールは思い出して微笑む。
「ねこさん」なんて変な名だったけど、すごく頭が良くて、小さな女の子を騎士のように守っていた、大きな綺麗な金色の犬。
「犬を・・・飼ってみたいな」
犬舎にいるような犬じゃなく、いつもそばにいてくれる、僕だけの犬を。
侍従はしかし、首を振った。
「三日後には、学園にお戻りでしょう?
あそこはペット禁止でごさいますよ」
そうだった・・・。
ダーラムシアの第六王子、リールはがっかりして肩を落としたのだった。