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その音は森の奥から聞こえてきた。
ざっ、ざっ、と地を蹴る足音。
荒い呼吸音、重い身体が枝をへし折る音。
子供たちが気付いて身を寄せ合った時には、もうすぐ近くまで来ていて。
ざっ!と茂みから飛び出したのは、若い牝鹿。
血走った目、飛び出した舌、赤く染まった脇腹。
「わあーっ!」
子供たちに向かって一直線、と思ったら、凄い跳躍を見せて全員の上を飛び越えた。
そのまま、反対の茂みに飛び込んで、消える。
走り去った後をぼーぜんと見ていたら、今度は犬の声が聞こえる。
獲物を追っている、勢子の犬の声。
おい、ここに居ちゃ、やばいぞ。
姫さんたちを集めて逃げようとしたけど、あっという間に犬たちが茂みから飛び出してきて。
全部で四頭、めっちゃくちゃ興奮して吠えまくってる。
子供たちが悲鳴をあげたんで、血迷ってこっちへ吠えかかった。
一頭が飛びかかろうとする。
やめろっ馬鹿っ!
獲物と人間の区別もつかないのかよっ!
飛び出した俺は斜めから肩をぶつけてフェイントをかけ、バランスを崩したところを、首根っこを咥え込んで放り出してやった。仲間とぶつかって、きゃいんと悲鳴が上がる。
と、みんなの敵意がこっちへ向いちゃったなぁ。
獲物はもうあっちへ逃げちゃったってば。
八つ当たりするなよっ!
犬たちの後ろから息を切らした人間の勢子が。
その後ろから馬に乗った貴族っぽい男たちが出てきやがった。
おいおい、ここはお貴族様が管理する御料の森じゃねえぞ。
こんな辺境の森の中で、いったい何をやってんだ!