第五章 ノア 魔力操作 1
第三章13からの続きです
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「杖無しで無詠唱だと?」
ダーラムシア王立魔法学院長、ラダスターンは眼を見張った。
バートラム講師の慌てふためいた報告から三日。
院長室に集まったのは、院長ラダスターン、副院長マリア・トリニテ、教授カール・フォン・ステルツ、その秘書ロベリア、講師バートラム。
再検査をしたカール・フォン・ステルツ教授が興奮した声で言う。
「ノアの魔力は異常な方向に発達している。
魔力が圧縮されているというか、密度が濃いのだ。
水晶で魔力量を測定しても、表示されるのは、器の大きさ。
密度が濃ければ、器に入る量はけた違いになる。
密度が濃ければ、流れる回路が細くても、十分な魔力供給が出来る。
これは・・・画期的な発見だ。
今までの魔力行使の常識を覆すぞ!」
「だが、なぜそんなことが出来る。
彼は魔無しのローランディアで育ったのだぞ」
「聞いてみましたわ。そうしたら、一人で練習していたのだと」
「毎日、体内の魔力を流して、練っていたと!
生徒たちが初めに苦労して覚える魔力循環を、達人級の腕前まで上昇させているのだ。
独学でだぞ!たった四年間で!
あれは・・・天才だ!」
「四年間・・・魔力を練り続けただと?」
学園の魔導師たちに、そんな地味な反復をしたやつはいない。
皆、少しでも早く魔法を発動させ、実力を見せなければと必死だ。
「・・・基礎の作り方から、違っているというのか・・・」
実際はほんの一年ほど、『ねこさん』が呼び水をしながら教えてくれたのだ、とはつゆとも知らぬ大人たちは大騒ぎだ。