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「夏の終わりにお子様が生まれてのう」
えー!
「すこやかな男の子だったぞ」
わーい、姫さんの弟だー!
うれしくてぶんぶん尻尾を振っちまったよ。
「それで、護衛についてた兵隊が知らせにいって、嬢ちゃんを連れてった若い騎士が、馬車を仕立てて迎えに来たんじゃ。
嬢ちゃんをおぬしに攫われたといって、平謝りに謝っとったが」
俺がさらっただとぉーっ?何言ってんだ、ラモントの奴めっ!
「奥様は、とても嘆かれておったがな。
仕方がない、迎えの馬車に乗って、帝国へ向かわれたよ」
そんなー・・・。
俺はがっくりして炉端に座り込んじまった。
いやいや、嘆いてる場合じゃない。
俺は姫さんのとこに帰らなきゃ・・・。
しょんぼりして出ていく俺に向かって、婆さんは気の毒そうにつぶやく。
「やはり言葉がわかるんかい。誰かの使い魔でもないのに、魔力持ちの犬なんて。
いったい何者だい、あんたは・・・」
・・・村人たちを避けて、姫さんのとこに帰り着くのに、行きの三倍くらい時間がかかっちまった。
魔力を使わない狼の歩きで、でも、気が重いから足が進まない。
もう、おなじみになった狩人たちの小屋に戻る。
「おかえり、ねこしゃん」
俺が入っていくと、姫さんがぱっと立ち上がった。
笑いながら駆けて来て、俺の首ったまに抱きつく。
姫さん・・・。
「くうーん・・・」
「ねこしゃん?」
「きゅうーん、きゅうーん・・・」
姫さんに顔をすりつけて、俺は鳴き続けた。
「きゅうぉぉぉぉーーーーんんん」
『どうしよう、姫さん、俺たち置いてかれちゃったよぉぉ。
ほんとに迷子になっちゃったよぉぉぉ』