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走っていたら、小川があった。
み、みずーっ!
俺は前足を水に突っ込んで、ぺちゃぺちゃ。
ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ・・・。
あーっ、面倒くさい!一口ずつ舌で掬い上げるのって!
人間ならコップに汲んで一息なのに。
唇に当たる固いコップと、ごくごくと喉を流れ落ちる冷たい水の記憶が、フッと閃いて、消えていった。
あれ?これは『銀』の・・・?
思い出して戸惑ったのは一瞬だけ。
早くしないと、追手が来ちまう。
あせってた俺は、わずかな間でも、かつての核の感情や記憶が分離してたのに無視しちまった。
舌で口の周りと鼻を綺麗にして、改めて風を読む。
薬草を煎じてる匂いがする。
あっちだ。
林の中に、小屋が建ってた。
煙突から煙が上がってる。
軒が深くつくられ、いろんなものが軒下に下げて干してある。
草や果実、わけのわからんものなど、いろいろ。
鍵はかかってない。
俺は前足をかけて扉を押し開き、中に入った、
小屋の真ん中で大きな鍋をかき混ぜていた婆さんが、ひゃっと言って飛びあがった。
うん、この人だ。
炉のそばの籠で寝ていた子猫がびゃっと飛び出し、梁に駆け上った。
あ、こいつもジュエルの子だ。
しかし、鋳掛屋の子猫よりおっきいな。
あいつ、どれだけ胤まいたんだ?
と、そんなことより、ねえねえ。母上を知らない?
「この馬鹿犬め!年寄りを脅かすもんじゃない、腰がぬけるわっ!」
婆さんが怒鳴る。
ねぇ、俺を覚えてない?母上は?
やっと回復してきた魔力でちょっと突っつくと、婆さんは驚いて目を見張る。
「おや、おまえ、あの時嬢ちゃんについていった犬じゃないかえ?
嬢ちゃんはどうしたんじゃ」
姫さんは無事だよ。
ねえねえ、母上は?
「奥様は、あの後、帝国の騎士が迎えに来て、行ってしまわれたぞ」
えーーーーーーっ!