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待ってーっ!
俺、そんなもんじゃないって!
そりゃ、ちょっとばててよれってたけど、えーっと・・・。
『洗浄!』って、魔力がたりねぇや!
慌てた俺は、とにかく家の中に飛び込んだ。
知らない人間の臭いがぷんぷん。
母上の匂いは・・・無い。
いや・・・かすかにあるけど、古い。冷たい。
母上が出ていったのは、だいぶ前のことだ。
外が騒がしくなってきやがった。
えーっと、やばいなぁ。
棒やらなにやら、獲物を持った村人たちがぞろぞろ。
・・・俺をどうこうしようってのか、人間ども。
いやいや、違う、あれは敵じゃない。
勘違いだ、ただの勘違い。
・・・それでも、俺様に敵対する奴らは・・・。
だーめっ!
俺は外へ飛び出し、騒いでる人間どもの足元をすり抜け、あわててぶつかり合ってる奴等を無視して、木立に飛び込んだ。
悲鳴と怒号が追ってくる。
かまっちゃだめだ。
敵対しちゃだめだ。
だけど、母上も、ゴラン・パトリスも、馬たちもいないよーっ!
あ、そうだ。
母上に薬湯作ってくれた、婆さん。
驢馬に乗って、こっちの方から来たはずだ。
林の中の、小道。
あっちだ。
俺はぐん、とスピードを上げて村人たちを引き離し、林の中を走っていった。