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「はいはい皆さま、良いお日和で、ご機嫌よろしゅう。
毎度おなじみの鋳掛屋ベンが回ってまいりましたよー」
陽気にしゃべる茶色の髪の中年の男は、村の広場で馬車を止め、片手を上げてあいさつする。
「馬の世話は任せな」
「早く店を開けとくれ」
「何か珍しいものはあるかい?」
村人たちが続々集まってくる。
娯楽の少ない辺境の村では、こういう旅の商人は貴重だ。
馬車を固定して側面をいじると、横の板がぱたんと開き、カウンターになる。
上にも横にも後ろにも、面白そうな雑貨が一杯。
「あんれ、まあ」
ぶら下がるぴかぴかの鍋釜や、積み上げられた布地を見て、婆さんが声を上げた。
こんなにたくさんの金物を一度に見たのは初めてだって。
「修理の受付は明日からな。
今日はゆっくり品物を見てっておくれ。
今回は鍋釜がおすすめだよ。
ガタカン帝国がローランディアを攻めたんで、国王陛下はダーラムシアの参戦をお決めになった。
この先、金属の値が上がっちまう。次回は持ってこれんかもしれん」
なんだって?
おかみさん連中は、急に眼の色変えて金物を物色し始めた。
おい、もっと聞かせろ、その話!
ベンの親父は、口をあけてぽかんと見ている姫さんと横の俺に気付いた。
「ほう、見事な犬だね。お嬢ちゃん。はて、どこのうちの子だったか・・・」
「猟師のハルんとこの娘が嫁に行ってね、代わりに雇った夫婦の孫さ」
「その婆さん、美味い酒を造るぜ」
「ほう、そりゃぜひ味を見させて欲しいな。
お近づきの印だ、ほら。嬢ちゃん、甘草の飴をどうだね」
親父が黒っぽい棒を差し出す。
婆さんがうなずくと、姫さんは喜んで馬車に近づき、飴に手をのばそうとして、親父の後ろの籠に気付いた。
柳を荒く編んだ鳥籠のようなもの。
その中に入っている、小さな生き物。
姫さんの顔がぱあっと輝く。
「ジュエル!」
なにっ!