第四章 マリアン 森の暮らし 1
第二章17からの続きです
どぶろくは米限定ということで、酒に変更しました。
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楢や楓の木の葉が色づいて来た。
短い夏が終わり、日ごとに秋の気配が深まる。
豚追いが林に豚を放して、ドングリをたくさん食べさせる。
秋の終わりに潰して、冬用の保存食にするんだ。
ダーラムシアの辺境にある、小さな村。
村からちょっと外れた丘の上に、木造のしっかりした作りの小屋がある。
俺たちは今、そこに住んでいる。
おんぼろ馬車で国境から離れた俺たちは、半月ほど道を辿って、その小さな村にたどり着いた。
戦の避難民と見られたら、年より二人と孫なんて、即追い出されたろう。
だけど立派な馬と、逞しい護衛犬、(えっへん)、馬車に下がった何羽もの兎と雉、いくばくかの銀貨まで持って、気持ちに余裕のある俺たちは、ちゃんと生活できている移住希望者になっていた。
それで村人は、この小屋に聞いてみろって教えてくれたんだ。
村一番の猟師と、息子二人が暮らす小屋。
もう一人娘がいたんだけど、この春お嫁に行っちゃって、家事をする者がいなくなっちゃった。
そしてひと月経ったら。
もう、台所の悲惨なことったら。
婆さんが作った兎のパイをきれいに平らげた三人は、話を聞くと、即、俺たちを雇ってくれた。
爺さんが、婆さんが仕込む酒はうまいぞって言ったとたんに。
猟師と息子たちは狩りに出て留守をすることが多い。
俺たちはその留守番だ。
小屋は三部屋もある、立派なもの。
将来息子に嫁さんをもらう予定なんだけど、いまだ女の気配もないって。気の毒に。
家の周りには罠をしまう納屋やら、毛皮の処理をする場所やら、いろいろ建ってる。
小屋の裏には清水が湧き、娘が残した小さな畑もある。
爺さんは「おうましゃん」を売り、(姫さんに嘆かれちゃったけど)子持ちの牝山羊を一頭買った。
かわいい仔山羊を抱いて、姫さんはご機嫌を直す。
腰痛の治った婆さんは、パイを焼き、パンをこね、山羊の乳を絞って、楽しそうに台所仕事を始める。
毎日旅を続けてるのはつらかったものね。
やれやれ、やっと、落ち着いて生きていけそうだ。
そこで、俺は姫さんに、魔法を教えることにした。