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魔力の測定と、初めての魔術の授業。
ノアが呼ばれたのは、明るい日差しが入る、こじんまりした部屋だった。
中央の丸い小卓に置かれた、子供の頭ほどもある、水晶珠。
その後ろに座って両手を組んでいるカール・フォン・ステルツは、いかにも魔法使いめいた年寄り、ではなく、愛想のいい笑いを浮かべた、くすんだ金髪に青い眼の、黒いローブをまとった中年の男性だった。
「初めまして。ノアール君。
私は初心者の魔術訓練を担当する、カール・フォン・ステルツ教授。
これは助手のロベリアだ」
横に立つ、同じく黒のローブの空色の髪の女性が、ノアに声をかける。
「こちらへいらっしゃい、ノア。
新入生の最初の授業に入る前に、あなたの魔力の大きさを測らせてもらうわ。
両手でその玉を包んでちょうだい」
ごくり、とつばを飲み込み、ノアは卓に近づいた。
これが、最初の、試験。
「初めて触るのね、怖がらないでいいのよ。
痛くもなんともないわ。
あなたがどれくらいの魔力の許容量を持っているのか、調べるだけ」
怖がってなんか、いない。
そう、ただ、緊張してるだけだ。
小柄なノアは、手を伸ばし、水晶珠に触れる。
包むと言っても、小さな手は珠の両側に置かれるだけ。
すると珠の中央にぽっ、と光が現れ、淡く広がった。
柔らかな淡い光に、女性はちょっとがっかりしたような声で言う。
「うーん、たいした量ではないのね。
でも、魔力は確かにあるのだから、心配しないで」
「練習していれば、少しずつ増えていくものだよ」
座っていたカール教授が立ち上がり、ノアの前に立った。
「確かに、王族にしては少なすぎるな。
だが、悲観することはない。
今まで、発動させたことはないのだね。
では、君の手を。
これから、私が軽く、君に魔力を流す。
感じて、受け取ってみなさい。
君の魔力を呼び出す、井戸の呼び水のようなものだ」
そう言って、教授はノアに両手をのばす。
ああ、『ねこさん』とやった、魔力の交換と同じことをするんだな。
ノアは、ためらわず手を伸ばす。
「いいかね。リラックスして」
しかし。
手を取られた途端、いきなり流れ込んできた激しい痛みに、ノアは悲鳴をあげたのだった。