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三か月分の、授業の遅れ。
「追いつくのは大変ですよ。
座学と一般教養は僕が引き受けますが、問題は魔法学です」
八歳とは思われぬほど、てきぱきとノアの世話をやく、ノーラン。
グレイの制服の着付けから食事の作法、教師への受け答えに至るまで、きっちり教え込もうとする。
一歳年上でおっとりしたダリルとは、対照的。
「敵国となったローランディアで覚えた事なんか、すべて忘れてください。
あなたはダーラムシアの王族なんですから」
・・・いやだ・・・。
ノアは思う。
父上。母上。マリアン。ねこさん。
マーガレット。トマス。ベス。エマ。
あれだけいじめられたフランツでさえも。
魔力が滞っていた黒い霧が晴れた後、ノアが初めて認識した「家族」
ノアが唯一知った、人の、「家庭」のあたたかさ。
あれを忘れたら、僕は生きていけない。
「それで。魔法学なんですが、これはまず個人授業で、カール・フォン・ステルツが一年の教師。
初心者から魔力を引き出す技術には定評がある人なんです。
新入生はまず。彼の元で、魔力の量と適性を調べられることになります」
『ねこさん』。僕の、初めての魔術の師匠。
彼がやってくれたように、教えてくれるんだろうか。
「ノア王子!僕の言う事、ちゃんと聞いてます?」
[頭悪いのかよ、この「魔無し王子」!]
ノーランはため息をついてしまう。
こんなぼんやり王子を、南寮の旗頭に出来るんだろうか。
「じゃ、魔力適性の確認、頑張ってくださいね」
ほんとに魔力がなかったら、伯爵の計画も水の泡だぞ。