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「おーい、ラビッツ!」
「ラニッツだ」
「あれが魔無し王子か?」
「どんな奴だった?」
南寮を出た途端、ラニッツを取り囲んだ、少年たち。
皆、好奇心でいっぱい。
学院は、ロート、ハモン、リールの王家の三兄弟のいる北寮と、その従兄弟、秀才のエリーのいる南寮の勢力が、現在拮抗していた。
三人の長兄、ロートが遠からず教授になるという噂に、北寮の力が一気に強まると思われていたのだ。
それが、思わぬ爆弾。
三兄弟とは腹違いの末王子が、南寮に入る。
勢力分布が、一気に変わるかもしれない。
将来の道、卒業後の就職にもかかわる、大事だった。
「うーん、わかんね」
「なに?」
「一言も、しゃべらなかったんだ。あいつ」
「へーっ」
「頭が悪いのか、慎重なのか」
「やっぱ、魔無しかよ」
「いや、綺麗に澄んだ紫の眼だったぞ」
「眼の色の話、ただの伝説だろ。初代学院長がそうだってだけの」
「いいや、根拠があるそうだ。誰かが卒業論文にしてた」
「とにかく、初授業を見てからだな」
少年たちは、ラニッツを囲んで、いつまでも騒いでいた。
上級生への、挨拶の仕方がわからない。
仕方なく、ノアはただ頭を下げた。
「ノアです。よろしくお願いします、エリー」
少年は近づき、無遠慮にのぞき込む。
「なるほど、黒髪に見事な紫の眼。
母上に良く似ているのだね」
「母を、ご存じですか?」
ノアはびっくりして聞いた。
「幼いころ、一度だけお会いしたことがある。
北方の抜けるように白い肌に、腰まで流した黒髪。
澄み切った紫の眼の、とても印象的な方だった」
ごほん、と、咳払いして横を向く。
なんてことだ、こんなことを口にする気はなかったのに。
この少年の、同じ紫の眼のせいだ。
気を取り直し、向かい合う。
「南寮へようこそ、ノア」