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爺さんがふーっと息を吐いて、へたり込んだ。
婆さんは・・・初めから腰が抜けてる。
「ねこしゃん?」
俺はぶるぶるっと身体をふるって、全身に『洗浄』をかけた。
おお、魔力が楽に発動するようになったこと。
浴びた血しぶきも、口の中の血の味も匂いも、きれいさっぱり消滅させて、俺は姫さんに近づいた。
姫さんはぎゅう、と俺に抱きついた。
「わるものは、「ねこしゃん」がみんなやっつけてくれる」
「悪者か・・・確かにな」
爺さんが力のない声で言った。
「脱走兵か、戦場荒らしの屑どもじゃろうて。
しかし、気のいいわんこだと思うとったお前様が、戦闘訓練を受けた軍用犬だったとはのお」
うん、そうじゃないけど。
みんな怒ってない?人殺しの怪物だって、俺を怖がってない?
軍用犬ならば、殺しをしても納得するの?
なら、そういうことでもいいや。
俺は訓練を受けた軍用犬らしく、びしっとお座りを決め、かっこよく胸を張ってみた。
ほら、こんな感じかな。
立派な軍用犬ですよー、って。
あっ、姫さん、飛びついちゃダメ。
ほらー、崩れて舌が出た、にへら顔になっちゃったよ。
今度はこっちが二人の荷物を物色する。
棍棒が一本に、わずかな銀貨と銅貨。
どっかから盗んできたらしい、スプーンとナイフ、安物の指輪が数個。
ブーツは穴が開いてるし、一人ははだしにぼろ布を巻いただけだった。
「こんなのがうろついているのでは、危なくて仕方がないのぉ。
早いとこ戦場から離れなければ」
爺さんはそういうと、古びた鍬を取り上げ、少し小止みになった外へと出ていった。