15
15
がつがつと鍋の底まで指でさらった二人は、じっと立っている爺さんと、姫さんをしっかり抱きしめている婆さんを無視して、薄暗がりの中、俺たちの荷物を物色し始めた。
「安心してな。雨が止んだらおさらばするからよ」
口では言ってるが。殺気がぷんぷん臭うぞ。
自分は強者だと思ってる、余裕。
・・・こいつら・・・殺しに慣れてる。
「ちっ、ろくなものを持ってないな。
鍋と馬はもらってくぜ。あとは・・・毛布だ」
後から来た方が、婆さんと姫さんが包まってる毛布を剥ごうとする。
「お爺さん!」
「逆らうんじゃない、婆さん」
棒を構える男から離れるように、爺さんは奥へ。
・・・まだ見つかってない、雉の骨を叩いてた、鉈のほうへ・・・。
毛布に手を伸ばした男が、姫さんの外套に気付いた。
「なんだ、このガキは。やたらに良い服を着てるじゃないか」
「孫に触れるんじゃない!」
男はケっと笑って、姫さんをつかもうとした。
もう、限界。
俺は陰から飛び出し、前かがみになっている男の背に飛びついて、強化した牙を延髄に突き立てた。
前は失敗したけど。今度こそ。
がぶり、と手ごたえがあって、急所を噛み砕かれた男は、そのまま前のめりに倒れる。
「うわっ!この・・・!」
俺に向かって棒を振り上げた男の足の甲に、爺さんが鉈を打ち込む。
「ぎゃっ!」
のけぞって叫んだ、喉ががら空き。
俺は男の背を蹴って、その喉にとびかかる。
懐に入ってしまえば、振り上げた武器は当たらない。
前足に体重を乗せて、噛みついたまま男を押し倒した。
頸動脈を喰い破ると、少し暴れたけれど、男はそのまま事切れる。
塩っぽい、溢れる血潮の味。
「な・・・なんと凄い犬じゃ・・・」
俺は獲物に噛みついたまま、じっとしていた。
流れる魔力に、首筋の毛が、ぞわぞわと逆立つ。
そう。
わかってたんだけどね。
どんな狩りの獲物よりも、人間を狩った方が、魔素が多いって。
この、母からもらった犬の身体が今まで拒んでいたけれど、これが、俺の本性。
ごめんな。姫さん。
俺は、もと『人喰い』だ。
姫さんを害そうとする奴は、容赦出来ないよ。